水際の攻防｜リアクション

水際の攻防

【猫又川の戦い】

　幽は、人魚（女）がいかついオッサン人魚（男）の祖母だったという事実に衝撃を隠せなかった。
「そうかー……。おねーさんじゃなくて、おばーちゃんだったのかー……」
　拾った小石の感触を確かめつつ、幽は円のスマホから流れるアニソンにできる限り耳を傾けて眠気に抗う。
「とりあえずこの石をぶつけられたくなかったら帰って欲しいんだけど、駄目かなー？」
　できるだけ当たると痛そうな感じに、幽は小石をひょいと上空に投げながら言う。
（やっぱりおばーちゃんで人魚とはいえ、石をぶつけるってのはねぇ？）
　誰にでもなく心の中で、幽はボヤく。できるなら、穏便に済ませたい。なお、男の方はコンクリを投げるのも厭わないつもりであった。
「貴様、うちのばーちゃんをたぶらかすとは何事か！」
「わっ！？　ちょ、槍は危ないって！　こんにゃろ！」
「ぐわー！」
　有無を言わさず襲い来る人魚（男）に、幽は容赦なくコンクリを投げる。
　ゴキン、と良い感じの音がしたが、大丈夫だろう。たぶん。
「ぐぬぬ……！　狂暴なやつらめ。ならば、この少女を人質に……」
　人魚（男）の一人が槍を操り、小柄な海を狙う。
「……っ」
　しかし、海は反応できている。
　突き出された槍を半歩横にずれてかわし、そのままろっこんで槍を加速させる。
「なっ……！？」
　自分の力ではないナニカに槍を引っ張られ、男が思わず槍を手放す。
　海はそれを手早く拾い上げて、男に突きつける。
（……大人しく帰るならよし。帰らないなら……わかるよね？）
　そういうメッセージを視線に込めて、海は目の前の男をきっと見据える。
「海ちゃん、ナイス！　よーし、ボクも負けてられないぞ！」
　円もまた、あえて槍の攻撃範囲に身をさらすことで、ろっこんで自身の身体能力を強化。
（そして、一気にボディブロー！）
「がはっ……！」
　鋭い一撃に、男が手放した槍をそのまま奪い取り、海と同じように槍の穂先を人魚に向ける。
　正面から視線を逸らさず、ちらりと円がまわりを見てみれば、他の二人も健闘している。特に碧南などは血塗れの鉄パイプも相まって、ちょっとＲ１８Ｇ指定気味の様相すら呈している。
「……というわけで、どう見ても状況は人魚クン達の方が不利だと思うんだけど？」
　円がとりなすように言えば、ついに残った人魚達も槍を下ろし、あるいは歌を歌うのをやめた。
「あ、終わった？　よーし、これでようやく乙女ゲーの世界に戻れ……る……」
　と、そこで戦闘モードを終了させた碧南が一気に我慢していた眠気に襲われて、川に水没しそうになる。
「ちょ、ちょっと！？　そこで、寝たら死ぬ！　そこで寝たら溺れて死んじゃうって！」
　そんな碧南に対し、幽は慌てて、すでに半分夢の中の彼女を川から引きずり出そうと、もうひと踏ん張りする羽目になったのであった。

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