水際の攻防｜リアクション

水際の攻防

【猫又川ラプソディ】

　小山内海は呆れていた。
（いきなりやってきて自分達の土地宣言って……）
　盗人猛々しいにも程がある。彼らには法という概念がないのだろうか？
『とにかく早く帰って貰わないと、大騒ぎになっちゃう！』
　海がスケッチブックに走り書きした言葉に、同じ場に居合わせた桜庭円と羽生碧南、そして紗雪幽が揃って頷いた。
「ていうか、もはやってなにさ！　土地の所有権って結構ややこしいんだよ！」
　円が憤慨すれば、碧南もコクコクと同意し、
「イケメンがヒロインに向かって言う台詞ならまだ許せるけど、あいつら全然イケメンじゃないもんね！　絶対許さないよ！」
　と、イカつい人魚（男）の姿を見て、乙女ゲームモードの脳から急に現実に覚醒させられた碧南が語気を荒くする。
「うん。綺麗なお姉さんの方はともかく男の方はさっさとお帰り願いたいよね」
　そう言ったのは幽だが、その口ぶりは健全な男子高校生というより、綺麗なお姉さんに憧れる中学生男子に近い。
「何を言っているかはわからんが、我々の川を奪うというのなら容赦はせんぞ！」
「「「『だから、君たちのものじゃないよ！』」」」
　もはや会話の通じない人魚（男）に、四人は同時に突っ込み、それが開戦の合図となった。
「人魚（男）はイケメン以外認めないわ！　ていうか、その槍がずるい！」
「ふはは！　戦いにずるいに、何も……って、ちょっ、おまっ！？」
　と、そこで槍を持っていた男の声が裏返った。
　碧南がおもむろに河原に落ちていた鉄パイプ（ちょっと血がついてる）を拾いあげたためである。
「ま、待て……話し合おう。話せばわかる！　そうだ、私の嫁になればこの川の五割をお前に」
「だから、あんたたちのものじゃないんだって！」
「ぎゃあああああああああああああああ！」
　ガキン、人魚（男）の頭が鉄パイプで殴打され、気味の良い音が狂騒の川に響く。
　と、そのとき、仲間を鼓舞するように人魚（女）が高らかな声で何かの唄を歌い始める。
「え……？　なにこれ、よく聴きとれないけど、なんだか眠く……」
　碧南がとろんとした目つきになり、思わず握った鉄パイプを取り落としそうになる。
「へー。お姉さん達、顔だけじゃなくて声もきれ……い……ってあれ？　俺も眠く……」
　河原で敵を威嚇するための小石を拾おうとしていた幽も、同様に、瞼を閉じかけそうになり、遅れてその違和感に気づく。
『円ちゃん、これって……』
「うん。あの女の人（？）達の歌の仕業っぽいねー。それなら！」
　円はにやりと口の端をつりあげると、愛用のスマホを取り出して、最大音量でスピーカーからアニソンを流し始めた。
「「「！？」」」
　流れ始めた現代音楽に、人魚達はぎょっとする。彼にとってアニソンは少し斬新過ぎたようだ。
　海もまた音楽プレーヤーに繋いだイヤフォンを装備して、人魚の歌に対応する。
「ふはは！　いくら耳を塞ごうとうちのひぃばーさんの歌声を完全に防ぐことはできんぞ！」

「「「『ひぃばーさん！？』」」」

　人魚（女）の見た目はどうみても妙齢の女性である。
　人魚の出現より、その実年齢に驚きを隠せない一行をよそに戦闘は続く。

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