水際の攻防｜リアクション

水際の攻防

【スライムだって温泉したい！】

　椎井莉鳥は、自主トレでかいた汗を流そうと寝子温泉にやってきた。
　そして、そこで蠢く数匹の半透明の生物に目を瞠った。
「……スライム？」
　莉鳥は、ねこったーを見る。
　やはりあちこちで不思議現象が目撃されていた。
「……早期発見できたのは、不幸中の幸いってところかしら？」
　とりあえず莉鳥はろっこん「スタンハンド」を発動させ、スライム退治を試みる。
『！？』
　バチンと電撃が奔り、スライムの身体がびくんと跳ねる。
　だが、
（……効いてない？）
　スライムは動きを止める様子はなかった。
　それどころか、
「……っ……分裂……！？」
　スライムはむずむずと身体を震わせ、次の瞬間、元の半分ほどの大きさの二匹のスライムに分裂した。
　莉鳥に気づいたスライム達は、ぶよんと音を立て、一斉に彼女に迫り始めた。
　刹那、先頭の一匹が、ぶしゃーと粘り気のある液体を放った。
「……ちっ……」
　莉鳥は走った。足を使い、液体をよける。
　が、数が多く、飛び交う粘液の一筋がついに莉鳥の身体にヒットする。
　じゅっ、と肉が焼けるような音がした。
「……っ」
　思わず顔をしかめる。
　が、痛みはない。ただ肌にまとわりつくぬるりとした感触が気持ち悪い。
「……って、シャツが溶けてる？」
　見れば、身に着けていたシャツの一部が粘液によって溶かされ、肌の一部が露出していた。
「……やってくれたわね」
　莉鳥は反撃に出た。
　身体に直接ダメージがないのであれば、と服を溶かされるのも省みず、積極的に電撃を加えていく。
　やがて、一匹あたりの大きさが元の八分の一程まで分裂させてやると、そのまま動かなくなることがわかった。
「……よし、これで全部倒したかしらね」
　ふぅっと莉鳥が額の汗を拭い、勝利を確信した頃には、彼女の服はだいぶ穴だらけになっていた。
（まあ、ダメージジーンズのようなものと言い張ればいいか……）
　それよりも、莉鳥は早く温泉に入りたかった。適度な運動の後の温泉はきっと格別なことだろう。
　ほかの場所でも騒ぎは起きているらしいが、ひとまず莉鳥は汗と粘液をしっかりと洗い流すために一人温泉へと向かった。

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