和菓子屋「萩屋」の夏｜リアクション

和菓子屋「萩屋」の夏

●涼し気なものが食べたい！

　白沢先生と話をしたり、和菓子を食べたりといった楽しい時間はあっという間に過ぎた。
　八神修と恵御納夏朝は白沢先生と別れ、「萩屋」を出た。
「いいお店だったね……楽しい一時を過ごせたよ」
「俺もだよ」
　歩きながら、夏朝は七夕ゆかた祭りの話を始めた。
「浴衣な七夕……いろいろ楽しかったなぁ……」
　昼の部では、短冊書いた後に愛を叫んだり、パレードに参加したり。
「後は雲に乗っ……こほん、夜空や天の川を眺めたりしてたよ！」
　夜の部では、非日常な出来事があったようで。
　修も七夕ゆかた祭りに行ったので、その時の出来事、思い出を振り返る。
「白沢先生に和菓子の作り方を教えてもらったから……作りたくなっちゃった」
　可愛い猫さん和菓子作りたい……いつか作ってみせる……と夏朝は張り切る。
「今日は付き合ってくれてありがとう、恵御納」
　これ、お土産だよ、と修はこっそり買った温かいたい焼きが入った袋を手渡す。
「……ありがとう」

　２人とすれ違った仙藤紫は、あの子達、寝子高スキー＆スノボ合宿に参加していたわねと思い出す。
「暑いねー」
「暑いわね……」
　シーサイドタウンに買い物に出かけていた紫と４歳下の妹の仙藤蒼は、夏の日差しにさらされたことで額や身体がうっすらと汗ばんできた。
　家に着いた頃には、２人とも汗びっしょりになっているかもしれない。
　どこかに立ち寄って休憩したほうがいいのかしら……と紫が考えていると、暑さでうんざり気味の蒼が唐突に「お姉ちゃん、甘いものを食べに行こ！」と言い出した。
「なんだか唐突に甘いものが食べたくなってきた……」
　水ようかんとか、わらび餅とかいった涼しげなものを食べに行こう。
　帰宅途中に蒼がねだるが、そういったお店が、この近くにあるのかと辺りを探す。
「そういえば、この近くに参道商店街から引っ越した「萩屋」という和菓子屋があったはずだわ」
　蒼のおねだりは困りものねと思う紫も、和菓子が食べたい気分に。
「私も甘いものを食べたくなったわ。「萩屋」に行きましょうか」
「そこの和菓子って何度か食べたけど、シーサイドタウンに引っ越してから訪れるのは初めてなんだよねー」
　参道商店街にあった頃、蒼は近所だったことあり良く行って和菓子を食べていた。
　甘いものを食べに行きましょう、という姉の言葉に、葵は元気を取り戻した。
「お姉ちゃん、早く行こう！」
　妹に手を引かれながら、たまには、おねだりに付き合うのも悪くないわねと紫はぎこちない笑みを浮かべた。
　久しぶりに来店する「萩屋」の和菓子は、引っ越す前のままだろうか。
　楽しみになってきた仙藤姉妹は、早く行こうと少し早めに歩いて「萩屋」へ。

　店内に入ると、テーブル席とお座敷席、どちらで食べようか話し合う。
「ゆっくりしたいからお座敷席がいいなー」
「そうね。ゆっくり休めそうだわ」
　吉住志桜里にお座敷の席に案内してもらい、空いている奥の席に着く。
　メニューを見るなり、蒼は食べたがっていた和菓子を注文した。
「私、水ようかんとわらび餅とフルーツ寒天よせ。それとバニラアイス！」
　そんなに食べて大丈夫なの？　と心配する紫に対し、葵は「甘いものは、異次元で処理されるから平気！」とキッパリ即答。
「私は抹茶のゼリーを」
　少々お待ちくださいと一礼し、志桜里はお座敷席を後にした。