和菓子屋「萩屋」の夏｜リアクション

和菓子屋「萩屋」の夏

●夏の予定と昔のあだ名

　注文したものが来るまで、仙藤姉妹は冷たい麦茶で喉を潤して一息つく。
　注文したの、早く来ないかなーと仙藤蒼が期待しているので、待ちきれないのねと仙藤紫は苦笑する。
「お待たせしました」
　運ばれてきた水ようかんとわらび餅、フルーツ寒天よせ、バニラアイス、紫が注文した抹茶のゼリーを見て「待ってました！」と蒼は大喜び。
　食べる前にスマホで和菓子を撮影。それが終わると、水ようかんを食べ始めた。
　一口食べるたびに、涼しい気分になった気がした。わらび餅を食べると、もっと涼しい気分になれるかも。
　そう思い、蒼はきなこと黒蜜がたっぷりついた部分をひとつ。
「もっちりとして冷たい触感と、黒蜜ときなこをまぶした甘さがたまらないわ」
　和菓子を満面の笑みで美味しそうに食べる妹を見ながら、紫は抹茶のゼリーを少しずつ味わう。
　わらび餅を完食した蒼は、その前にとフルーツ寒天よせを撮影。
「見ていたら食べるのがもったい気がするけど、食べないほうがもっともったいないでしょう」
　見た目いいからすぐ食べられないと言うが、撮影が終わるとほぺが落ちそうな表情で食べ始めた。
「いやもう最高、言うことないわー」

　甘いものを食べながら、紫と蒼は時折、会話を交わす。
「お姉ちゃん、夏休み、どうするの？」
「特にこれといった予定はないわ。蒼は？」
　そうね……と首を傾げて考える。
「いつもならゲーム大会に出るとか………だけど、さすがに来年は受験だから、どうしようかなー、なんて」
「あら、珍しく受験のことを言うのね」
「私だって、ゲーム三昧ってわけじゃないから」
　失礼しちゃうわね、と溶けたら味わえないじゃない、とバニラアイスを急いで食べる。
　妹が真剣に受験のことを考えていたので、紫は安心した。
　やりこみ型ゲーマーなので集中力が高く、頭の回転が非常に速い。
　何事も、とことんやりこまなければ気が済まず、効率的に物事を熟知するのを重視。
　それらを活かして勉強を頑張れば、志望校に合格できるだろう。
　紫自身も集中力が高く、一度何かに取り組むと周囲が見えなくなる。そのあたりは姉妹、といったところか。
　夏の予定、今後のことを話しながら「萩屋」の甘味を堪能しつつ、姉妹はゆったりと流れる時間を満喫。

　仙藤姉妹が「萩屋」を出たのは午後３時頃。その時間帯は「萩屋」従業員達の休憩時間だ。
　矢萩秋はまかないにオムレツを作り、休憩中の吉住志桜里や従業員、アルバイト達に振る舞う。
「暑い中、頑張ったご褒美だ。デザートは一品まで無料で食べれるよ。私は、この水ようかんをいただくさ」
　４時からも頑張っとくれ！　と秋は水ようかんを手にしたまま、明日の仕込みをすべく調理場に。
　休憩中、「萩屋」の従業員のひとりに「あなたも実はやんちゃしてたタイプ？」と問われた。
「そうですね……どちらかと言いますと、やんちゃをシメる側なタイプでした」
　それは意外、と従業員達は驚いた。
　高校からは大人しく隠していたが、最近、どうも中学生時代のあだ名『しおパン』が漏れ聞こえるように。
　どこから知られたのかしら……と気になる。
　そんな考えを消すかのように、思わず掌に拳を景気よく打ち鳴らしてしまった。
　ざわめく後ろ髪の鎮まるのに合わせ、そっとやわらかモードの顔に戻して繕う。
「すみません、驚かせしまって……」
　この音と膂力でついたあだ名は、腐れ縁になりそうだが「萩屋」の人達は、アルバイトをしている間だけでも仲間として受けれてくれるかも。
　そう考えると、志桜里は少し気持ちが軽くなった。

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