和菓子屋「萩屋」の夏｜リアクション

和菓子屋「萩屋」の夏

●和菓子の話と食べ方

　図書館帰りの八神修は、何かに呼ばれた気がして和菓子屋「萩屋」の前で自転車を止めた。
　自転車に乗ったまま、土産物として買って自宅で食べるか、店内で食べるか悩む。
「……どうしたの？」
　修と同じく「萩屋」の前で立ち止まった恵御納夏朝は、修に悩み事があるのか心配になり声をかけた。
「なぜか甘いものに惹かれて……食べたくなった」
「そう言われてみればたしかに……僕も食べたい……」
　男ひとりで甘味というのは、少々抵抗がある。どうすれば……。そこで閃いたのは、夏朝を誘って「萩屋」に行くことだった。
「恵御納、俺と一緒にここで和菓子を食べないか？」
「うん、いいよ……喜んで！」
　親しい友人のお誘いは嬉しいもの。なので、迷うことなく即答。
「決まりだな。お店に入って、和菓子を食べよう」
　店内に入るなり、夏朝はいろいろ気になる和菓子を見て、どれにしようか迷う。
「どれにしようかな……猫さんなおまんじゅう可愛い……。いろいろ気になるものはあるけど……」
　迷った末、寝子どら焼きと寝子たい焼き、フルーツ寒天よせを注文。飲み物はリンゴジュース。
　寝子まんじゅうも食べたかったが、猫の形なので食べることを躊躇ったのでやめた。
（今日は！　少し食べ過ぎても！　いい！）
　自分へのご褒美と、今日は美味しい和菓子を遠慮なく食べようと決めた。
「どら焼きとたい焼きを注文したんだな。俺は寝子まんじゅうとたい焼き、水ようかんにわらび餅を注文した。飲み物は抹茶を」
　２人ともたい焼きを頼んだが、修はあんこ、夏朝はチョコと中身が違う。

　頼んだ和菓子をテーブル席で食べようと、２人は空いている席を探す。
「……白沢先生」
　夏朝が見かけたのは、テーブル席でどら焼きとおまんじゅうを味わって食べている白沢先生。
「白沢先生、こんにちは」
「こんにちは、八神君、恵御納さん。よかったら一緒に食べない？」
　相席しようと誘われたので、喜んで、と修と夏朝は承諾した。
「和菓子、いろいろ食べたいですよね」
　２人が注文したものが来るまで、和菓子の話をすることに。
「上生菓子は眺めるだけでも季節を感じられるし、美しいですね」
　製菓部顧問の白沢先生のお菓子の作り方を教わりたいと、修はお願いする。
　おまんじゅうを食べた後、白沢先生はお菓子作りについて詳しく話し始めたので、修は尊敬の眼差しで聞く。
　和菓子に対する気持ちが膨らみ、自分で作ってみたい、製菓部で作る時は参加したいと思った。
「恵恩納は、どんな和菓子を作ってみたい？」
　そうだね……と、どんなものを作りたいかを考える。
「可愛い猫さん和菓子……！」
「猫か。練りきりの小さな猫を寒天の風景に入れるのもいいね」
　恵御納さんらしい可愛い和菓子ね、と白沢先生に褒められたので夏朝は嬉しくなった。
　和菓子作りの基礎や作り方等、ためになる話を真剣に聞き、参考にしようと必死にメモを取る。
　いつか可愛い猫さん和菓子を作る……と、忘れないように。

　メモ書きが終わったので、夏朝はチョコたい焼きを食べる。
「恵御納はどこから食べる派？　俺は尻尾か、割ってお腹からだ。なんとなくだけど」
「八神君は割って食べる派なんだ。僕は……尻尾から」
「尻尾まであんこが詰まってると、嬉しくなるね」
　びっしり詰まっているのがいいのよね、と白沢先生も同意見だった。
（白沢先生の食べ方はどんなふうなのかな……）
　気になった修と夏朝は、白沢先生の食べ方が気になる。
「私は頭から食べる派よ」
　どこから食べても美味しいわよ。そう言って、白沢先生は幸福そうな顔で食べ始めた。