夜の女帝号、洋上の宴｜リアクション

夜の女帝号、洋上の宴

●それぞれの後日談

　リンコとの会合が持たれた翌日。
　新聞の片隅に「ジガント・ルアが公式発表！　＜巨大な月の指輪＞盗難事件はショーの演出」という記事が、シブカワの「現在、本物の＜巨大な月の指輪＞はたしかにジガント・ルアが所有しています」というコメントとともに載った。
　寝子タブなどのゴシップ誌がその後、ちょっとした特集記事などを組んだりしたが、そんなとき話題になるのは怪盗ケットシーのことばかりでシーノの名は現れず、事件はやがて人々の記憶から薄れていった。

　ここでいくつか、後日談をお話しよう。

　まず、会場を騒がし、海に消えた――と見せかけて、衣装だけを海に落とし、ワイヤーを引っかけ船壁で鳴りを潜めていた怪盗ケットシーは、その後、監視カメラの目を逃れて船内に戻ると、シグレ・ナイトウォーカーとして何食わぬ顔で下船していた。
「こいつ、結局使わずじまいだったな」
　住まいにしている猫鳴館の屋根の上で。
　ひとり頬杖をつきながら、夜闇に浮かぶ月に、レプリカの＜巨大な月の指輪＞を翳す。
　シグレの手にあった２つのレプリカ。そのうち、ひとつは薫子に取られたが、もう一つは手元に残ったままだったのだ。
　ショーの最中にあんな騒ぎにならなかったら、帰り際に人ごみに紛れて会場入り口付近に落とし、騒ぎを起こしてやろうと思っていたのだが……機会を逸してしまったというわけだ。
「今更、公にするわけにもいかないよな。仕方ない。レプリカは２つとも怪盗に盗られたということにさせてもらおうか」
　シグレが怪盗ケットシーだということは、ごく限られた友人しか知らない。
　今回のチーム三日月の仲間でも、それを知らない人がほとんどなのだった。

　また、ナタリア・シシロヴァに情報を送ると約束させられていた圭花は、ダミーのアドレスを用意すると、渡された連絡先にこんなメールを送った。
　＜件名：ご連絡＞
　＜内容：黒の夜会ドレスの君へ。シーノは、伝説の宝の島を探す組織という認識で間違いないようです。
　　　　　それ以上の仔細は語れません。なお、当方と先方との関係は一旦白紙に戻りました。
　　　　　以上、こちらは約束通り連絡はしましたのでそちらも約束をお忘れなく――＞

　そして、旧市街にある神無月文貴の日本庭園付きの優雅な自宅には、ジガント・ルアからシャンデリアの請求書が届いた。
　もっとも、ほんの鯉数匹程度の請求金額だったから、文貴ならきっと苦も無く支払えるだろう。

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