【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

「……ふ、ふふ。素敵なマダムに背中を押されるがままに参加いたしましたが……！
　ペアでお散歩だなんて素敵ですね、そこかしこで愛の灯火が輝いているように思えます……！」

　と、いうわけで明智と申します。
　先程までの恍惚とした雰囲気をひょっと引っ込ませ、優雅に一礼するアケーチ・タッマーキの耳に
『ほっほっほ』とおだやか～な笑い声が届く。
　教師と名の付く先生方の中には、自主的に人の多い祭りを巡回している者もいる。
　本来、そう、本来その先陣を切って動くか指示を出すかな役職であろう寝子高『校長』である雨宮草太郎、その手には綿飴やリンゴ飴が握られている。ばっちりお祭り堪能中のようであった。

「チャオ♪　私は雨宮、……いや、草ちゃんです。これもご縁だろうから、そう呼んでもらいましょうか」
「何卒よろしくお願いいたします、草ちゃんさん！　ふふ……！！」

　今は羽のない寝子島仕様な姿で、青薔薇と黒薔薇が舞う夜色の浴衣をぴしりと着こなしたアケーチと、
　いつも通りな蝶ネクタイ、に、縦じま浴衣な独特ファッションな草ちゃんこと雨宮校長。
　スタッフのおばちゃん、たまには冒険心くすぐられて茶目っ気で組んでしまうこともあるようだ。
　年齢差以上に傍目には今夜最高の不可思議ペアとして映っていた、かもしれないが。
　本人たちは大層嬉しそうに一つの提灯携えて、るんるんペースで三夜湖を沿うように歩いている。

「明智さんはお祭りが好きなんですか」
「ええ、それはもう、すこぶる！
　先日は褌祭りなるものにも、恐縮ながら参加させていただいたり……ふふ！」
「いいですねえ。ふんどし、ひとたび身に着けると愛着が出るんですよねぇ」
「日頃から私のお尻を引き締めてもらいたい！　と思うほどにはっ」

　会話はとても盛り上がっていた。
　『まだまだこの島のイベントとやらを知らぬ身なので、是非ご教授賜りたく！』などと熱くねちっこくアケーチが放てば、『ほっほっほ。そうかねそうかね♪』と楽しそうにノる校長。
　ふと、誘導するよう置かれる竹燈籠や提灯の灯りが消え、辺りが真っ暗になっても二人のペースに乱れナシ。

「きゃっ☆　暗くて怖いですね、ふふ……！」
「ほっほっほ、アクシデントもお祭りの醍醐味っ」

　アケーチよりちょっぴり背の低い校長の肩というか後頭部へ、ぴとりと寄り添うアケーチにも『良きかな』と全く動じない校長である。
　結局灯りがついても、微笑ましくも違和感満点に寄り添い合ったまま、二人は三夜湖のゴールまで歩き切った。
　と、そこへ遠くから響く声あり。
　『こうちょ―――！　自分が選んだ担当の見回り時間にどこ行ってしまったんですか～～～！』
　自身も散策兼校長探しでこの界隈にいたらしい黒崎俊介の、虚しいイケボイスが鳴っていた。
　もう教頭では無いはずだが相も変わらず振り回されているようである。

「やあやあ、見つかってしまいそうだ。ところで明智さん、笹流しはもうやったかい？」
「え？　いいえ」
「では明智さんがよかったら、そちらで合流しましょう。
　大丈夫、人に聞きながら、屋台を堪能しながら、ゆっくり場所を探すのもまた一興ですよ」
「！　分かりました！」
「また後程♪　ほっほっほっほ」

　次第に近くなってくる己を呼ぶ声から逃げるように。校長、羽がはえてもとい、軽やかにスキップでどこかへ去って行った。
　ステキな方と待ち合わせ☆　またお会い出来る……ふ、ふふふ！
　アケーチはアケーチで、反射的に色々お返事していたのを反芻しては、ご縁を噛み締め。
　喜びのあまりクネクネしながら歩き出すのだった。