【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

　――　暗いところは寮までの道で慣れてるけど、いつもと違うからちょっと怖いかも。
　日頃はドキドキし過ぎてしまうのを抑えるように、早川珪とは無意識に一定の距離保って話していたのかもしれない。
　はぐれないように、と意識して彼にぴたりとくっつくように歩けば、いつもより遥かに心臓は早鐘を打つ。
　ゆらゆら照らす提灯の光が、想い人の顔の輪郭を時折くっきり浮かび上がらせるのを綾辻綾花は何度も見つめてしまう。
　――　珪先生は近くで見てもカッコいいですね。
　おかげで怖さは和らいだそんな頃。
　頼りに進んでいた竹燈籠の灯りが、等間隔過ぎても見当たらなくなり、再び不安に駆られた。

「珪先生、もしかして竹灯籠の火が消えてるんでしょうか？」
「時折風もあったからね。大丈夫、イベントにハプニングは付き物だろうから、きっと近くにスタッフが待機してくれてるよ」
「そ、そうですよね」

　明かりが点くのを少し待ってみようと歩みを止めた２人。
　そこへ、見越したように空から雲が（以下略）
　その雲が白い大きなにゃんこに形を変えた瞬間、綾花の両目が輝きで全開になる。

「可愛い！」
「……ハプニング発生した場合の、代わりのアトラクション？」
「珪先生、乗れるみたいです！」
「（アトラクションだな）」

　寝子高教員は須らく、変わり種な生徒たちの相手でトラブルに慣れている為かもしくは地か。
　珪も例にもれず、驚きはしたものの別段それ以上不思議に思うことなく、もふもふと手触り堪能している綾花に倣って猫の背へ。
　――　猫さんはやっぱり偉大です。怖さが一気に消えました。
　ホクホクした表情の綾花と、目を細め微笑ましそうに見つめる珪とを乗せた大きなにゃんこ雲、満天の星空へ二人をご案内。

「凄い……」

　見事な天球が視界に広がれば、その美しさに言葉が出てこない。
　隣りで見上げている珪も同じようだった。
　今年も天の川が見れて良かった。それを、珪先生と見られて本当に良かった。
　引き込まれるよう星に視線囚われている横顔に、見惚れてしまいそうになれば紅潮する頬を両手で押さえ落ち着かせてから。

「願い事は決まってますか？」
「僕のかい？　そうだね……図書室に素敵な本が増えますように、かな」
「珪先生らしいですね」
「利用してくれるコも増えて、いつも利用してくれてるコたちにはより笑顔になれるかな、っていう
　実は驕奢なお願いだけれどね」
「そんな事ないです。とってもあったかい気持ちになれる願い事です」
「綾辻さんは？」
「私は……遠いところに会いたいにゃんこがいるから会えますようにって」

　珪が表情綻ばせ『きっと会えるよ』と優しいまなざしをくれれば、綾花ははにかんではそっと浴衣の巾着袋へ触れた。
　いつも一緒に居る、澄んだ濃淡ピンクの石。
　合わせて星型になるその片割れ持つ猫さんを思い浮かべれば、映る星座たちが一瞬猫の顔に見えた気がした。