【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

　ありがとうございますありがとうございます本当にありがとうございます……！
　一歩、足を進めるごとに腕や肩がお相手と触れそうになるたび、宮祀智瑜は何度も受付スタッフのおばさまへ感謝の念を送っていた。
　桐島義弘先生と、今夜は一緒に居られそうな気がする！　というお祭り高揚感効果か、直感でそう期待してはいつも以上に丁寧に身なり整えて、いざ繰り出したわけだったのだが。
　暫く通り過ぎる人波に目を凝らしても、居てもたってもいられず歩き回っても一向にその姿が見つけられず、がっかりしてトボトボと気付けばちょうちん散歩のそばまで来ていたら。
　これぞドンデン返しな運命、とばかりに智瑜の大きな瞳に彦星ならぬ義弘が飛び込んできた、
というわけであった。

「義弘先生は、暗いところ平気ですか？」

　ときめきが今にも溢れ出そうで、どうにか平静保とうと無難な質問を横顔へ掛けてみる。
　相変わらずな仏頂面であるが、智瑜はちゃんと理解している。
　身長差のある自分が持ちやすいよう、提灯の高さを下げてくれている事を。
　歩きやすいようこちらの歩幅に合わせてくれている事を。
　闇夜に恐怖が無いわけではないけれど、大好きな人と共にいれるドキドキの方が勝っていれば、智瑜の表情に陰りなど浮かぶはずもなかった。

「日中より視界が見えない分危険だという怖さは持っているが。対処を巡らしていれば大抵問題無い」
「先生が一緒でとても心強いです」
「ふむ、信頼してもらえているならば、教師冥利に尽きるな」

　会話も楽しみながら、次の竹燈籠の光を目を凝らし探す智瑜だったが。
　次の灯りが無い、気がする？

「義弘先生、灯りが見えないです」
「順路を外れたはずはないのだが……」

　少々不安そうな色が声に宿れば、なだめる言葉は出ないものの智瑜の提灯持つ手にポンポンッと温もりが触れた。
　不器用な優しさに、込み上げそうになった心細さもすぐに引っ込んで、ふと空を見上げると。

「ひゃ……！？」
「な、なんだっ」
「……あ、あれ？　雲、ですね……」
「………雲、だな」
「白かったからお化けかと思っちゃいました。心臓に悪いです……」
「そもそも大気の構造考えれば、こんな所にこんな塊として現れるはずはないのだが」

　思わず義弘の腕にしがみついた智瑜につられるように、一歩後ずさった義弘だが分析は冷静である。
　二人が見守る中、雲はマイペースにその形をもこもこ変えていき、あれよという間に白馬の姿となれば四つ足を折り曲げしゃがみ込んだ。
　まるで乗るよう促すように。

「先生、これに乗るんですか？」
「乗ったらばどうなるのか説明がない内は、むやみに動くべきではないと思うが……」
「でも、悪い事しそうなコには見えないですが……」
「……」
「……」

　義弘先生、冷静なようで意外と動転していたらしい。雲が白馬になったことへのツッコミは出なかった。
　結局、絶対に手を離さぬようにとの再三の注意の下、智瑜と共にその後ろへと乗り上がる。
　――　すぐ後ろにいる先生が近くて……凛々しい姿がカッコいいです。
　夢のようなシチュエーション。
　先生と一緒ならどこへでもいけそうだと思った瞬間、白馬な雲は天を駆けるようにどんどん上昇していく。
　ロマンチックな夜空散歩。雲を抜ければ、智瑜の表情は更に星の煌めきのように輝いた。

「雲が出ていて、流れ星見えないかと思っていましたが……すごいですっお願い事しなくちゃ」
「天の川と流れ星、か……叶うかはさておき、ご利益は確かにありそうだ」
「『来年の七夕も義弘先生と一緒にいれますように』」

　智瑜の言葉を聞いた瞬間、微か義弘が驚いた表情をその瞳に浮かべていた気がしたけれど。
　その後どこか照れたようにポツリと『奇特な生徒が居たものだ……』と呟かれたのを、智瑜はしっかりと耳で捉えるのだった。