ワールドツアー＜イタリア編＞｜リアクション

ワールドツアー＜イタリア編＞

○突然のイタリア旅行

　城山水樹は、恋人のヒュー・ヒューバートの木天蓼市内のアパートで一緒に写真集を見ていました。
　ヒューはカメラマンで、部屋にはいろいろな写真集がありましたが、二人が見ていたのはローマの写真集でした。
　美しい風景にうっとりした水樹が、ヒューに肩を預けて言います。
「ふたりでイタリアに行きたいな」
　それはいいね、とヒューが答えようとしたとき。
　部屋が消えて、二人は写真集で見たような景色の中に立っていたのでした。
「……これ、イタリアだね」
「これって不法入国に……ならないみたい？　パスポート持ってるし」
　二人とも旅行に向いた服装でしたし、慌てて探ってみたバッグの中にはなぜかパスポートも必要なお金も入っていたのでした。
　首を傾げるヒューですが、水樹は楽観主義です。
「問題なさげに思えるけど……あれ、イタリア語理解できる？」
　道行く外国人の言葉が耳に入って気づきました。
「本当だね」
　英国人の父を持つハーフであるヒューですが、幼少時に父親と別れたため英語が得意というわけではなく、ましてイタリア語などわからないはずでした。
「ということはこれって神魂の仕業かな……でも私はただの『ひと』だし」
　不思議に思う水樹は実はもれいびです。
　けれどめったに使う機会のないその能力に、彼女は無自覚でした。
「でも、せっかくの機会だし、ヒューとイタリア旅行を満喫しようかしら。ローマと言えばあの有名な恋愛映画の舞台だし」
　水樹はあの映画が好きで何度も見ています。
「ああ……」
　ヒューもすぐに昔の映画のことに思い至りました。
「楽しくて、そしてたぶん、ちょっとワクワクするようなこと」
　にっこりと映画の台詞をつぶやいた水樹に、ヒューは微笑んで、
「バイクを借りてこよう」
　と作中に登場したかわいいスクーターを探すことにしたのでした。

　王女様になりきった水樹は、ヒューの運転するスクーターで市内の観光名所を気が向くままに巡っていきました。
「スペイン広場ね。ジェラートが食べたいわ」
「……残念ながら今は階段では食べられないみたいだ。でもあそこにジェラート屋さんがあるよ」　
　看板を見ながらヒューが指差します。
「たくさん種類があって迷うわ……」
　ヒューはそんな様々な表情の水樹をカメラに収めます。
　ジェラートを買い、味わいながら水樹は言いました。
「まずはコロッセオに行きましょう、私の家ね」
「警察のお世話にはなりたくないな」
　水樹の様子を微笑ましく思いながら、ヒューはスクーターを走らせエスコートします。
「ここで剣闘士や猛獣の戦いが行われたのね」
　コロッセオを見上げて言う水樹に頷きながら、
「大きいね」
　と言いつつ、ヒューが見つめているのはファインダー越しの水樹。
　次に二人が向かったのはトレビの泉。
「カメラを持っててよかったよ」
　後ろ向きにコインを投げ入れる水樹の姿を撮りながら、ヒューは言いました。
　内向的で無口なヒューですが、水樹といると自然に言葉が出てくるのです。
「映画じゃ美容院に行ってたけど、髪を切る気はないわよ」　
　水樹も答え、次に二人が向かったのは、ウソつきが手を入れると噛むという『真実の口』。
「手を入れてみる？」
「ヒューからどうぞ」
「僕は正直だから大丈夫」
　そう言って片手を入れたヒューが、
「いたた、抜けない！」
「まあヒューったら！」
　水樹は驚いた顔をしてみせ、ヒューはもう片方の手でシャッターを切るのでした。

　それから二人は、ローマで美味しい夕食を食べ、恋人たちにふさわしい素敵な一夜を過ごしました。