ワールドツアー＜イタリア編＞｜リアクション

ワールドツアー＜イタリア編＞

○ローマで休日

「はーはっはっはっはっは！」
　高らかな笑い声とその発生源の少年の美しさに、観光客の視線が集まりました。
「いつの間にか寝子島を抜け出した美の妖精、花椿涼太郎だよ！」
　あたりを見回しながら涼太郎は首を傾げます。
「さて、ここはどこかな？　どこか既視感があるね……は！」
　中央に噴水のある広場。道行く人は皆外国人、外国っぽい建物……涼太郎は思い至ります。
「ここは、僕の好きな映画の聖地、ローマだね！」
　そこでまた高笑い。
「はーーーはっはっは！　美しい僕、イタリアに降臨さ！　はっはっは、あの映画の名作が好きすぎて此処に来ることが出来たのかな？」
　あたりを見回すと、大きく長い波を打つような形の階段が。
「あぁ、ここは映画で主人公とヒロインがジェラートを食べていたスペイン階段だね！　……おや？」
　オールバックの黒髪に眼鏡、ヒゲ。観光客の中に、涼太郎は見覚えのある顔を見つけました。
「そこにいらっしゃるのはリッカルド町長！」
　あたりをきょろきょろ見回していた中沢リッカルドは、涼太郎に声をかけられ我に返った様子でした。
「おや、そういう君は寝子島の人ですか？」　
「そうか、リッカルド町長はハーフでしたよね！　イタリアにお詳しそうですし、ぜひこの僕の美しさに合いそうな素敵な場所を教えていただきたいですね、はーーっはっはっはっは！！」
　どこにいてもポジティブな涼太郎です。リッカルドには突然すぎる展開ですが、こんなことで慌てるようでは寝子島の町長は勤まりません。
「そうですね。せっかくの機会です、私のふるさとを見てもらいましょう！　美しさ……それならいいところがあります」
　リッカルドは涼太郎を手招きし、早足で歩き出すのでした。

「ここがウフィツィ美術館です！」
　リッカルドに案内されてやってきた涼太郎は、ルネッサンス様式の優雅さに目を瞠りました。
「あぁ、素晴らしい美術館……！　建物自身が芸術的ですね」
「ここは16世紀にフィレンツェを支配していたメディチ家が建てた美術館です。ルネサンス期を代表する国宝級の絵画が集まっていますよ」
　予約が必要なほど混雑する美術館ですが、幸いランチタイムで混雑しておらず、比較的並ばずに入ることができました。
　
「これは『ヴィーナスの誕生』……こっちは『春』！　教科書やネットや写真で見た名画の実物を見られるなんて感動ですね……！！　どんなに歳月が流れても、美の魅力は衰えないものですね」
　うっとりする涼太郎の手には、どこから取り出したのか真紅の薔薇がありました。
「喜んでもらえて、案内した甲斐がありました」
　久しぶりの故郷と審美眼を持つ同伴者に満足げなリッカルド。
「あぁ、またぜひイタリアに来たいね！　そしていつか僕は名画となって美術館に飾られたいものですね、はーっはっはっはっは！」
　そしてやはり自分の美しさも忘れない涼太郎でありました。