ワールドツアー＜イタリア編＞｜リアクション

ワールドツアー＜イタリア編＞

○青の洞窟とゴンドラ
　
　寝子島で御巫時子は、旅行会社の前を通りかかっていました。
　『イタリア』という文字を見たとき吸い込まれたように意識が消えて、気付くと見覚えのない街にいました。
「もしかして、ここはイタリア……？」
（この前もこんなことがありました）
　と思った時子があたりを見回すと。
「尚輝先生」
　思ったとおり、ろっこんで頭から鳥を飛び出させた五十嵐尚輝先生がそこにいたのでした。
「御巫さん……今度はイタリアのようですね」
「不思議なことも慣れてきました。また一緒にイタリアを巡りたいです」
　時子はおっとりと微笑みました。
「構いませんよ。どこへ行きましょうか」
　先生の問いに、少し考えた時子は言いました。
「青の洞窟に行ってみたいです。とても綺麗なのだと聞いたので」
　尚輝先生は頷きました。
「聞いたことはあります。御巫さんは、なぜ洞窟が青く見えるのだと思いますか？」
「えっ……」
　思いがけない問いに時子は小首を傾げて考えました。
「空や海が青く見えるのとは、違うのでしょうか？　……何か科学的な理由があるんですね」
「では、実際に行ってみましょう」
（なんだか化学の授業みたいですね。尚輝先生らしいです）
　時子は楽しくなっていました。

　洞窟へはまずモーターボートで向かい、途中から小さな船に乗り換えます。
「ドキドキしますね……」
「揺れるから落ちないよう気をつけてください」
　先生が手を差し伸べてくれたので、時子はつないだ手に別の意味でドキドキしてしました。
（手を離したくないです）　
　けれど小舟に座るとき、先生はさりげなく手を放してしまうのでした。
　ちょっと残念に思いましたが、いよいよ洞窟の中へ。
「綺麗……」　
　時子は息を飲みました。光が差し込み、青い世界が美しくキラキラ光っています。
「写真で見たのも綺麗だったけど、実際に見た方が圧倒されますね」
「そうですね。さっきの問題ですが」
　先生の言葉に、時子は青さの謎について思いだします。
「どうして青く見えるんでしょう？」
　考えてもわからなかったので聞いてみました。先生の
「イタリアは大部分が大理石の上に出来ている半島だそうです。海底が白いのです」
「そうなんですか」
「太陽光線が海底に反射して海中を通過し、その光が届きます。曇りの日に来ても青く見えません」　
「私たち運が良かったですね」

　青の洞窟を後にした二人は、ヴェネツィアへ向かいました。
　川を行きかうゴンドラを見て、時子は言いました。
「ゴンドラに乗りましょうか」　
　夕暮れ時、船頭の歌うカンツォーネを聞きながらヴェネツィアの街並みを尚輝先生と眺めます。
「不思議な旅も終わりですね」
　前回もこのくらいの時間で終わりだったことを時子は思いだしたのでした。
　オレンジ色の光景を目に焼き付けて。
「楽しかったですね」
「そうですね」
　尚輝先生の答えに時子は微笑んで。
　ゆらり揺れるゴンドラに、揺られて先生に寄り添うのでした。
（素敵な景色を好きな人と見れるのは幸せです）
　感動を共有したくて、このひと時を時子はかみしめるのでした。
（次の旅は何処に行けるでしょうか？）

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