幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～｜リアクション

幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～

「あれは……」

　一方、要塞の様子を海上から眺める人物がいた。
　河島澪である。
　寝子島の住民を大多数避難させたあと、自身も事態の解決のため、パスターＸに向ったのである。今は、その船上だった。
　そして、山盛りパスタの土台からフォークへと伝わる部分に、何らかの異常が発生したことに、澪は気付いた。

「何かが暴走している感じだな……急がないと……」

☆

　そして、今まさに操作盤に攻撃が加えられて、何らかの暴走が始まったパスターＸのフォークの上では。

「何か今日、走ってばっかだな……！！」

　志波拓郎が走っていた。
　追ってくるパスタ四天王。食用油とスクロールの魔術、ジェネレイトファイアによって点火された炎は一定時間消えることはない。それが砲台の支柱を崩すという拓郎の目論見をどれほど現実化してくれるものかは分からなかったが、それなりの効果はあるように見えた。
　しかし問題は時間である。見るといつの間にか夜明けが近い。それに砲台に直接攻撃を仕掛けてきた危険人物である拓郎を、敵である四天王は放っておいてくれない。
　逃げ回ってばかりでは始まらない。何か、もう一押しが必要だった。

「よし……やるか、最後の一押し……！！」

　意を決した拓郎は、勢いよく両手で頬を叩いた。ろっこんの合図だ。
　だが敵もそう簡単に拓郎にろっこんを使わせてはくれない。当然のようにパスタを触手のように伸ばして攻撃をしかけてきた。
「おっと！」
　５秒前。
　ジェノベーゼが緑色のパスタで絡めとろうとしてくる。
「よいしょ！」
　４秒前。
　カルボナーラがこってりとしたパスタを棍棒のように振り下ろした。
「ていっ！」
　３秒前。
　ペペロンチーノが唐辛子爆弾を投げつけてきた。
「とりゃあっ！」
　２秒前。
　ボンゴレが硬い貝殻でカッターのように切りつけてくる。
「でやあっ！」
　１秒前。
　拓郎は走り出した。彼のろっこんは頬を叩いてから５秒以内に助走を始めることが発動条件――四天王の攻撃をすんでのところでかわし、パスターＸの砲台、食品サンプルのフォークへと向けてダッシュ。
『……！！』
　後ろで四天王が何事かを叫んでいるのが聞こえる。だが拓郎は構わず走り出した。もう聞こえない。
「……！！」
　目標はフォークの先端だ。
　道は目標に伸びている。
　ギャラリーは後ろに置いてきた。
　後は走るだけだ。
　いつもの競技のように。
　ただまっすぐに。

　そして――跳べ！！

　『テイクオフジャンパー』。助走距離に比例して超人的なジャンプを行うことができる拓郎のろっこんは、彼を前ではなく上へ跳躍させた。
　空。はるか高くからパスターＸを見下ろした拓郎は海の向こう側から昇る朝陽を見た。
「……！！」
　普通ならこの高さから落ちたらタダではすまない。だが彼のろっこんは、身体をその落下に耐えうるほどに頑丈にさせる。あとは、ちょっとした工夫。

「ラージ！！」
　残った最後のスクロールで、拓郎は砲台そのもののサイズを２倍にした。大きさが倍なら、当然重さも倍になる。
「自重で折れやすくなればいい……！！」
　後は拓郎自身による仕上げである。空中からフォークの先端に狙いをつけた。上空からの落下で最後のトドメを刺す。

「いけーーーっ！」

　相当な衝撃をもって拓郎がフォークの先端に着地。
　その途端、ぐらりと砲台が揺らいだ。

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