幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～｜リアクション

幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～

　世界は、スパゲッティナポリタンに征服されようとしていた。

　これは冗談ではない。

　突然押し寄せたスパゲッティの大群――ナポリターナ・スパッゲティーノ大総統率いるパスタ軍により、世界人類のほとんどはパスタ化されてしまったのだ！
　そして今まさに、寝子島から敵の要塞へと向うボートが数隻！　彼らこそが世界のパスタ化を救うことができる、最後の戦力だった！！
　人類の命運は、彼らの手に委ねられたのだ！！

「だからって、なんであんたとこんな所へ来たのかしらね？」
　椎井莉鳥は呟いた。場所は寝子島近海、パスタ軍の要塞であり巨大砲台でもあるパスターＸへと向う小型の船上である。
「まあ、成り行きってヤツじゃないかな……いいじゃないか、Ｂ級ホラー撮影地巡礼みたいなノリで」
　その呟きにボンヤリとした返答をしたのが、北里雅樹である。船といっても、大型のものや音を出すものではすぐに見つかってしまう。今はいわゆる手漕ぎボートのようなものでパスターＸへの接近を試みている。
「撮影地巡礼っていうより、私達が出演者よね……」
　莉鳥は雅樹の軽口にまともに取り合わない。寝子島にわずかに残された人々の協力を得て、ふたりはここまで来ていた。島の住民もかなりの数がパスタ化されてしまっている……もはや、時間は残されていないのだ。
「出演者といえばさ、こないだの映画はヒドかったな」
　まるで緊迫していない様子の雅樹を見ていると、あの要塞にどうやって潜入しようか真剣に考えている自分がバカらしくなってくる。
「もう。もうちょっと真面目に考えてよ」
「ああ、そう？　けっこう考えてるつもりだけど」
「……ボンヤリした顔して。そんなことだから、いつも寝惚けてるとかやる気がないって言われるのよ」
　いつもこうだ、と雅樹との噛み合わない会話を交わすたび、莉鳥は思ってしまう。
「そうは言うけどさ」
　雅樹の言葉を遮って莉鳥は返した。
「『こういう顔の作りだから仕方ない』でしょ？」
「そうそう、さすが椎井だ」
　ふたりは幼馴染であり、元恋人同士であり……未だ友人を続けている腐れ縁同士である。だが、今この場ではそのことは関係がない。何しろ世界人類の行く末がかかっている、私情は排して事に望むべきだろう。
　莉鳥が改めて要塞を見つめた。その姿はまるっきり巨大な食品サンプル。昔の喫茶店でよく見た、アレだ。
「……しばらく、スパゲッティどころか麺類自体が食べたくなくなるわね」
　これから敵要塞に侵入し、パスタ兵相手に戦いを挑もうというのだ、食傷気味になることは充分に予想できた。
　それに対する雅樹の返答は。