幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～｜リアクション

幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～

　巨大砲台であり、同時にパスタ軍の要塞でもあるパスターＸ。
　その最深部に、ナポリターナ・スパゲッティーノ大総統はいた。玉座のようなものがあり、そこに座っている。
『……』
　軍帽を目深に被ったそのスパゲッティの顔面からは想像することしかできないが、その落ち着いた佇まいはある種の風格のようなものを感じさせた。
　もうすぐここに侵入者がやって来るであろうことは分かっていた。要塞各所から侵入者の情報は届いていたし、パスタ軍の侵攻を水際で防ぎ続けていた寝子島の住人たちが、このまま手をこまねいて夜明けを待つことなど、あろう筈もないからだ。
『……？』
　心地よい緊張感に身を任せている大総統の頭上に、一匹の蝶がひらりとはためいた。
　どこから迷い込んだのだろうか、しかし一瞬、大総統は視界の端に映りこんだものが蝶であるという認識に、対応が遅れた。

『……？』

　その一瞬。
　その一瞬の間に異変が起きた。おそらくは通気口のようなものから入り込んだその蝶は、次々と仲間を増やして大総統の頭上を覆い尽くしていた。

『何者だ！！』

　ただの蝶の一匹なら見逃しもしようが、これは明らかに異常事態である。大総統の声に反応するかのように、おびただしい数の蝶の大群は、部屋の天井近くから落下を始めた。
『何っ！？』
　その蝶――だと思っていたもの――は、空中で元の姿に戻り、大総統の頭上に襲い掛かった。それらは要塞内を探りながらろっこん『胡蝶の詩』で蝶に変化させて連れて来た、いくつかの瓦礫であった。
　もちろん、そのろっこんの持ち主は屋敷野梢である。
「これでも喰らえば少しは痛いでしょう！！」
　施設内のドアであるとか重要そうなパーツであるとか、武器庫のようなところから盗んできた弾薬類にいたるまで、数十個を大総統の頭上に浴びせた。うまく誘発してくれれば、少しでもダメージを与えられるかと期待したのだ。
　しかし。

『……ふんっ！！』

　驚くべきことに、大総統は降り注ぐそれらの瓦礫を手にした剣のひと薙ぎで弾き飛ばしてしまったのだ。
　剣先で軽く火薬が弾けるような音がして火花が散ったが、期待したような効果は得られなかったようだ。

「あちゃー、足止めくらいにはなるかと思ったんですけどねー」

　言いながら、梢は大総統の眼前にひらりと姿を現した。

『寝子島からの侵入者か、歓迎するぞ』

　言うが早いか、大総統は梢に向って剣を振り下ろした。
「おっと！！」
　一応、その行動は予想済みである。梢は再び蝶に変化すると、ひらりと舞い上がった。

『……ふん』

　ひらひらと舞い上がりながら梢は、また部屋の中のいくつかのパーツを蝶に変えて大総統の上に落とす。しかし、もはやそれらを意に介していない大総統は、触手化した左腕でそれらを振り払った。

『逃げるか。多少の手ごたえはあったが……』

　素早く通気口にもぐりこんだ梢は、そのまま通路側へと蝶のまま進んだ。様子見は済んだ、深入りは禁物だ。
「というか、思ったよりも真っ当に強そうですねー……これは、きちんと戦力を結集させないと」
　考えながら、梢は両腕に軽い痛みを感じる。どうやら先ほどの剣が、反射的にかばった腕をかすめていたらしい。

「あまり、時間もないことですし……」