幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～｜リアクション

幻想遊戯～お前もナポリタンにしてやろうか～

　要塞内部。
　意外と整備されている要塞の廊下を、御剣刀は走っていた。

「何にせよ、数が多いな」
　進化したろっこんで海を比較的容易に海を渡ることができた刀は、いち早く潜入していた。中は硬いパスタでできた壁や天井があり、思ったよりもまともに活動できる。
「えーい！！」
　しかしながら、到達が早かったことと、敵から見つかりにくいこととは、必ずしも一致しない。隠行に関しては無策に乗り込んできたため、あっという間に多数のパスタ兵に追われることになったのだった。
「これでもくらえ！　カタナ……」
　まるで特撮ヒーローのように大袈裟な構えから、カタナは独自の必殺技を繰り出した。
「スペシャル、パーーーンチ！！」
　刀のろっこん『加速』を使い、超スピードからのドロップキックで数体のパスタ兵を撃退する。

　パンチと言いながらドロップキックを放つあたり、さりげなく卑怯。

「細けぇことは気にすんな！！」
　しかしその強引さで次々と並み居るパスタ兵を撃破する。もとより剣術の訓練を欠かさず、寝子島に来てからも多数の戦闘経験を積んでいる刀にとって、一般のパスタ兵はもはや敵ではない。目指すは大総統、ナポリターナ・スパゲッティーノひとりである。
「あれ……ところで」
　大総統へ一直線。戦い続ける刀はふと気付いた。

「大総統ってどこにいるんだ？」

☆

「どわわわぁ！！」

「！？」
「なに！？」
　海上を要塞ギリギリまで接近して途中から泳いで潜入した椎井莉鳥と北里雅樹の横を、物凄い勢いで走り抜けていく人物がいた。
　志波拓郎である。

　潜入行為そのものは、莉鳥や雅樹と同じように船による接近で可能だった。問題は内部に入ってから。とにかくパスターＸの砲台を目指した拓郎は、これまたあっという間にパスタ兵に見つかってしまったのだ。
　結局のところ、砲台の警備が意外と厳重だったということに加えて、拓郎が持ってきた装備にも問題があったと言える。

　フライパンと食用油である。

　ちょっと多く持って来すぎたか、と拓郎は思った。ボス撃破も重要だが、砲台への対処も必要と考えた拓郎は、持てる限りの食用油と、護身用にフライパンを持参したのである。

　まあ目立つこと目立つこと。

　しかし陸上部の拓郎、足はバツグンに速い。パスタ兵に追われながらも捕まらないのは、彼の運動能力の賜物であった。莉鳥と雅樹から見ると、フライパン片手に食用油を抱えた男子が、多数のパスタ兵に追いかけられながら懸命に走って、そして走り去って行ったのを目撃したことになる。

　そして困ったことに、拓郎は真剣なのだ。

「これ……俺たちも見つかったことになるんじゃ」
「！！　そういうことはもっと早く言って！！」
　あまりの光景に呆然としていたふたりだが、雅樹のほうが一瞬だけ我に帰るのが早かった。
「こっちだ！！」
「きゃっ！！」
　幸いパスタ兵の意識はまだ拓郎に集中している。
　雅樹は莉鳥の手を取って強引に物陰に引っ張った。
「……！！」
　何事かを抗議しようとする莉鳥の顔面を胸板に押し付けて、静かにさせる。
「……」
「……」

　数秒後。ようやくパスタ兵が過ぎ去った後、莉鳥が小声で呟いた。
「もう行ったわよ。いつまでこうしてるつもり？」
「……あ、ごめん」
　雅樹も言われて気がついた。莉鳥の声を抑えるために、雅樹はしっかりと莉鳥を抱きしめるような形で物陰に隠れていたのだ。
「もう」
　さっと雅樹の腕からすり抜ける莉鳥。潮に濡れた髪が軽く鼻先をくすぐった。
「……」
　廊下からパスタ兵の様子を探る莉鳥の後姿を物陰から見る。
「……何？」
　振り返る莉鳥。何でもないよ、と返事をした。

　かつては、この腕の中に確かなぬくもりを感じたこともある相手なのに。

　なんだかずいぶん遠く感じるもんだな、と雅樹は考えていた。