黒い指先　――三つ目の願い――｜リアクション

黒い指先　――三つ目の願い――

●薬局アネモネ

　参道商店街、薬局『アネモネ』。
　薬局の経営者でもあり、薬剤師の毒島柘榴の住まいでもある。
　元々、拝島医院と付き合いのある柘榴も、薫からの連絡を受けた一人だった。
「拝島の嬢ちゃん、そんな事に巻き込まれてたのか……二人とも連れ戻してやる、待ってろ」
　足音も荒く廊下を行き、娘の部屋のドアノブに手を掛ける。
「おーい、林檎。ちょっくら人助けしに行くぞ、付き合え！」

　だが、間が悪かった。
　そろそろ寝ようと着替えていた毒島林檎は、無断で部屋に乱入してきた父親の横っ面に、強烈な一撃をお見舞いした。
　筋骨隆々の大男が、横倒しになる。
「いきなり入ってくるな！（もー！　ノックしてよね！）」
　心の呟きは、小さな声で。態度とは裏腹に、林檎は繊細な女の子なのだ。
「つぁ～……見事なパンチ。流石、俺の娘だぜ……！」
　林檎にノックアウトされて、伸びたと思った柘榴がムクリと起き上がる。
　頬を摩りながらも、過去の傷痕が多く残るその表情は晴れやかだ。
「殴られて喜ぶ奴があるか！　（やだ、打ち所が悪かったのかな？　お父さん、大丈夫？）」
「……シーサイド九龍の、情報屋の所に向かうか……あそこなら何かわかるだろう」
　いきり立つ林檎など、どこ吹く風。柘榴はさっさと、家を出る支度を始める。
「何があったか知らないが、わかるように説明してくれ」
　部屋から顔を覗かせ、脱いだばかりの服を手早く身に着けた。
　柘榴は事情を、かいつまんで説明した。
「……よく呑み込めないが。とりあえず人の生き死にに関わるなら見過ごせない。
　仕方ない……手伝うか（どんな命でも大切だからね！）」

　こうして毒島父娘も、現場へ向かった。

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