心の刃を胸に抱き｜リアクション

心の刃を胸に抱き

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日が落ちてしまえば、辺りが暗闇に包まれるまではあっという間。気づいた時には、あたりはもう真っ暗になっていた。
道端にぽつんと立つ街灯に寄りかかって、刀は荒い息を吐いた。鳥っぽい影にやられたのか、制服はところどころついばまれたみたいになって血が滲んでいる。
しかもにじりよってくる影は、減るどころかむしろ増えているような気すらして。
このままだと、じわじわ嬲られてお終いだ。
空っぽの手を握りしめる。強く強く、爪が手のひらに食い込むほどに。
空っぽの手を睨んで、食いしばる。
嗚呼、武器があれば。
「刀があれば、どうにでもなるのに！」
刀の手の中で、翡翠色の光が弾ける。
弾けた光が収束し、形を成していく。ただの光ではありえない確かな重さが、刀の手から全身へと伝わっていく。
光が収まった時、そこに在ったのは大小拵の二振りの刀だった。
「これは……祖父さんの刀！？」
思わず眉を上げる。間違いない、道場で見たあれそのままだ。
これも神魂の影響なのか、という疑問は今は置いておく。
刀があれば、こっちのものだ。
鯉口を切るように、影へと告げる。
「来いよ、やってやる」
視線を走らせ、ほとんど飛び込むようにして狭い路地へ。
影が追ってくれば、思う壺。数が絞られたところへ、すかさず脇差を抜いて斬りかかる。
いつもよりも強く大きく、アスファルトをぶち抜くつもりで放つ踏み込み。そこから放つのは、地面を、空を断つ勢いの一閃。
先頭の影が、上下真っ二つに斬り裂かれて崩れ落ちた。
後ろの影が怯むんだのを、刀は見逃さない。風切るように踏み込んで、削りとるような地摺りの一撃で影の足を刈り取った。
頭上で、風が唸る音がした。
影の鳥が、鈍く煌めく翼を広げて空を舞う。羽ばたき一つで、世界が一瞬音を忘れるほどに加速する。
――だが、『加速』は刀の領域だ。
撃鉄が落ち、世界が凍る。
影鳥の動きすらはっきり捉えられる速度の中、刀は進化能力で空気を足場に駆け上がる。
「速さで俺に勝てると思うなよ！」
打刀を抜き放ち、その一刀で首を刎ね飛ばした。
『加速』が解け、時がもとの流れを取り戻す。
そのまま影のもとへと飛び降り、上段から打刀を叩きつける。弾けるような音がして、影の飛沫が塀に飛び散る。
祖父の刀を持つ今の自分なら、負ける気がしない。
影を拭って、歯を剥いて笑う。
「このまま、夜が明けるまでやってやるさ！」