心の刃を胸に抱き｜リアクション

心の刃を胸に抱き

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やがて、勇生は丁字路に出た。
来た道を探して巡らせた視線が、エメラルドグリーンに輝く幾つもの光を見る。
ひゅっ、と喉から甲高い音が漏れる。
恐怖を振り払うようにチェーンソーを構えれば、翡翠の光が影の姿を顕にする。
おおよその形は確かに人で、けれど腕が地面に届くほど長かったり、右腕だけが子供の身体ほども膨れ上がっていたり、腰からもう一つ腕が生えていたり
人に近いからこそ目を逸したくなるようなものが、群れをなしていた。
全身の筋肉が強張る。けれど腹の底へと響くエンジン音が、立ち向かう勇気をくれる。
「か、かかってこい、お前らの好きにはさせないぞ！」
先手必勝とばかりに、影の群れへと切り込む。
目を背けたくなるような姿の影を、けれど見開いた瞳いっぱいに映して。
袈裟懸けに振り下ろしたチェーンソーが、三本腕の影を斬り裂く。血のように噴き出す影の飛沫を浴びながら、絶叫と共に振り抜く。
勢いあまってたたらを踏んで、その背後から襲いかかるのは、長い長い腕の影。
勇生の背中が、灼熱する。遅れて、脳天まで響く激痛。短く熱い息が漏れ、けれど歯を食いしばり、地面を踏みしめた。
身体を大きく捻って、チェーンソーを背後へと横薙ぎに一閃。ぶった切られた腕が宙を舞う。
背中の痛みに力が抜けそうになる足を踏ん張り、斬り上げを見舞おうとした。
横殴りの衝撃が、しかし勇生の身体を吹き飛ばす。
跳ねて、転がって、塀に激突してようやく止まる。口の中が、鉄の味とこみあげる酸っぱいものでいっぱいになった。
それを地面へぶち撒ける最中、右腕の膨れ上がった影が、身体を揺らしながら近づいてくるのが見えた。
「チェーン、ソー……は」
赤く染まりつつある視界の中、ソレはすぐ眼の前にあった。伸ばした指先は、けれど触れるばかりで握れない。
一歩だけでも身体が動けば、届くのに。
全身を襲う燃えるような痛みと、背中から身体が弛緩していくような感覚が、それを許してはくれない。
その間にも、影は一歩また一歩と迫ってくる。
もう、駄目なんだろうか。
身体が、思考が、ゆっくりと鈍くなっていくなかで、誰かの悲鳴を聞いた気がした。

それは多分、家族や、友人や、想い人の声だったように思う。

いやに大きく耳を打つ鼓動か、エンジンの唸りか。
勇生の身体が震え、痛みとは違う熱が頭の中で暴れまわって、それでは足りぬと身体を巡る。
ほとんど握りつぶすような勢いで、眼鏡を外す。
「まだ、やられる訳にはいかねぇんだよ！！」
『うらがえりのゆうき』、発動。
さまよった指先がスターターグリップを掴み、無理やりにチェーンソーを引き寄せる。
咆哮をあげて立ち上がりざま、膨れた右腕を肘のあたりでぶった切った。
そのまま、振り上げた円刃を影の喉元へと突き立てる。影が飛沫となって飛び散るが、そんなもの知ったことか。
やられるくらいなら、徹底的にやってやる。