屋根模様になにを見るか｜リアクション

屋根模様になにを見るか

　一瞬、いつも共に在る自身の羽根の一部かと思われた。
　シーサイドタウンにある仮住まいのアパートから外へ踏み出した早々に、アケーチ・タッマーキの左目が捉えたのはそれ程に純白で、ふわり風に舞っていたモノだったから。
　外へ干された洗濯物たち、そこからたった今飛んだかのように映れば、本来ある翼は無い姿な寝子島でのアケーチは、両の足で勢いよく駆け出した。

「これは大変ですね……！」

　海寄りのこの辺りは寝子島内でも風が常より吹き抜けるとはいえ、本日はいつも以上に時折強風が吹けば、その白き物体は伸ばされる手をあっさりすり抜け更に先へと飛んで行く。

「ふ、ふふ……！　『追いかけてごらんなさぁい』とでもおっしゃってるようですね、ふふ……！！」

　何やら楽しくなってきた雰囲気を醸し出すアケーチ。
　ひらりひらりと空を駆けるように屋根から屋根へ。つかず離れずな距離をたまたま保って追いかけっこしている様子は、青春の１ページのよう。
　現在地を全く気にする事無く、視界に捉える白き物のみに情熱の視線を注ぎ追う事暫し。
　追った先の家の屋根へとそれが消えたのを目に留めて、一度足を止める。

「おや……いかがいたしましょう。……あぁ、登りやすそうな木がありますね。少々失礼いたしましょう……！」

　上等なスーツは人体の動きも自由に解放する。颯爽と木に足をかけ登って行けば、住人を驚かせないように静かに屋根へと着地した。
　お誘いに興じるように、全くめげる事無く追いかけ続行である。