屋根模様になにを見るか｜リアクション

屋根模様になにを見るか

▲　▼　▲　屋根模様　～シーサイドタウン時々旧市街～　▼　▲　▼

　高く昇った日の光と共に、微か風と遊ぶ波の音が二階の窓からお邪魔する。
　シーサイドタウン住宅地、とある一角にある一戸建て。
　海側を向くその窓のカーテンが、ゆっくりと開かれた。

「……寝すぎたかしら」

　ベッドから伸ばされた手。部屋へ舞い込んだ陽射しを見れば椎井莉鳥はポツリと呟いた。
　本日は日曜日。
　普段であれば陸上部の練習のある日だが、今日は珍しく休みとのことで。
　久しぶりに時間を気にしなくていい心持ちからか、二度寝して正午過ぎな現在となっていたわけである。
　眠気が抜けないまま、のろのろとした動作で立ち上がって着替えを物色する。
　ターコイズブルーにマリンブルー、シアンやミントブルー時々迷彩柄など青緑系統に寄った中から、スカイブルーのタンクトップとショートパンツを取り出して、シャワーへ向かった。

　そういえば出掛けると言っていたっけ。
　両親が外出中である事を、ようやくスッキリしてきた頭で思い起こしながら、
　いつもなら丹念にドライヤーで乾かす髪もほぼそのままに、台所へと進む。
　冷蔵庫から、適当に目についたレタス、トマト、ハム、チーズを取り出すと、食パンに挟んで簡単なサンドイッチを作る。
　コップに冷たいミルクを注いでいる中、ふと思いついたように一瞬動きを止め。
　次には、お皿にのったサンドイッチとミルク入りコップを持ったまま二階へと戻っていく。

　自分の部屋の開け放たれた窓から外を見つめ、莉鳥はまた暫し思案顔。
　その目に映るは曇り一つない青空。海からの心地よい潮風。
　決意したような色をその目に浮かべると、窓に身を乗り出したかと思えば軽やかな身のこなしで、一階の屋根部分へと難なく着地した。
　適当な場所に腰かければ、持ってきたサンドイッチをゆっくり口に運び始める。
　丁度遮る建物の無いこの位置からは、街並み向こうの海がよく見えた。
　まだ湿り気の残る髪や肌を、時折吹き抜ける潮風に撫でられるのが気持ちよく、いつもはあまりしない穏やかな表情になる。

「どこまで言っても青い……あのまま空へ向かって落ちてしまいそう……」

　心癒されているからだろうか。
　簡素なはずのサンドイッチも美味しく食べ終えると、空と海が重なるところを探すかのように遠くを見つめた。
　海の紺（あお）と空の蒼（あお）。時折そこに波の音が微かに聞こえてくる。
　日々を過ごす中で、時々顔を覗かせる不確定な未来。
　考えるべき先の事が頭をよぎる度、どこか億劫な気持ちを生んで。

　しかし今は、そんなものは何も考えず、ただ目の前の青色を堪能する。
　そう何度も見ていない新鮮な景色のはずなのに、不思議と懐かしさを抱くのに微か首を傾けてすぐに思い至った。
　真っ直ぐに伸びたグラウンド。全速力で走ったその先で跳んだ瞬間、これによく似た青が視界に映り込んでくることに。
　――　自分が走高跳を始めたのも、少しはあの青色に近づきたかったのかも。

　時間の流れがとてもゆっくりに感じる一時。
　食欲が適度に満たされた状態なれば、次に訪れるは穏やかな眠気。
　青に近い場所で包まれるように身を丸くすると、莉鳥の瞳は青を映したまま微睡み始めるのだった　――