屋根模様になにを見るか｜リアクション

屋根模様になにを見るか

　ﾊﾟﾀﾊﾟﾀｯ……ﾄﾞﾀｯ、ﾎﾞｽﾝｯ！　ﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞｰｯ！
　２階の方で響くそんな物音にも、ここの家主たる椿美咲紀は一向に気にとめる様を見せない。
　とある２匹の猫たちの運動会さながらな遊びようは、すっかり慣れっこである。
　今日も先輩猫なスノウが優勢でしょうか。それとも、学んできたクロマメが意地を見せ始めたでしょうか。
　まだまだやんちゃ盛りな一歳未満な猫２匹の姿を浮かべれば、（ウスイ）本に向けていた表情がふにゃりと緩んだり。

　と、元気な音に耳を澄ましてから暫くして、その音たちが途端に鎮まったのに美咲紀は気付いた。
　――　……はて？
　首を傾げたその脳裏に浮かぶは、猫にありがちな『遊んでいる最中でも電池切れでおねむー！！』なコロリと横たわった姿。
　念のため、本を閉じれば２階へと上がっていく。
　もしも眠っているのならば起こさぬようにと、そぉっと開いた扉の先でどんぐりまなこが捉えたものは。

「はーうーー、網戸が空いているのですっ」

　それと猫２匹の姿が全く無いのから連想される事。
　さてはベランダへ舞台を移したですか？
　カラリと窓を開けて、洗濯物など干せる十分な広さのあるベランダに視線を走らせてみた。
　時折ある事態なので、てっきりすぐに戯れる２匹が映ると思っていた、のだが。
　……いない、とな！
　猫のように目を丸くした美咲紀、一気に心配の色が顔に浮き上がったその時、頭上から「にゃー」との愛くるしい声がしたのをしっかり聞いた。
　バッと顔を上げて見れば、満月のような猫の目たちが自分を見下ろし、再びにゃー♪
　えっへん！　とさも誇らしげな響きに聞こえる鳴き声である。

「はーわーわー、キミタチ、なんでそんな所に登っているですか。
　物干しとかそんなの踏み台にして登ったですか」

　問いかける美咲紀へ、ふふり……とどことなくドヤ顔のスノウとクロマメ。
　屋根の上から楽しそうに自分を見下ろす二匹見れば、くくぅ、何だか悔しいのですという気持ちが。

「私も混ぜて欲しいのです！」

　言うが早いか美咲紀嬢、颯爽と脚立を持ち出して来てはそれを華麗に引き延ばし、
　二階屋根出っ張りへカシャリ！　とセット完了。

「ふふふ、私だって屋根に届くのですよ。文明の利器というやつです」

　猫相手にドヤ顔で応戦して見せれば、しかして登る足は慎重である。
　なんとか屋根までたどり着けば、足元で『まぁよくやったにゃん』とでも労っていそうな顔で
　見上げてくる２匹をひと撫でしてから、改めて顔を上げて景色を見渡した。

「ふぉ～、風が気持ちいいです。離れたお家の庭も見えちゃうです」

　様々な形の屋根たちだけでなく、彩り豊かな星ヶ丘の庭たち。
　何度も見ているはずなのに、視界が高くなるだけでとても新鮮で。

「こんな特等席があったとは。良いトコ教えてもらったです！」

　もちろん人様のプライバシーを覗き見するつもりは無いけれど。
　離れて見える緑と花々のコントラストを、景色として楽しむくらいはきっと平気。
　すとんっ、と屋根に腰かけれれば美咲紀はにこにこと暫しここで寛ぐことに決めた。
　と、その耳にどこからかピアノの音色が鳴り響くのが聴こえてくる。

「これ、猫ふんじゃった、ですよね。ものすごくカッコ良い感じの！」

　ステキですね～♪　なんてスノウとクロマメに語りかければ、尻尾たしたしっと答える猫たち。
　すると今度は不思議な音階たちが。
　曲になっているような、時折誰かが鍵盤をぷしっと踏んではまたリズムに乗るような。
　デタラメ時々流れるようなメロディ。鍵盤で遊んでいるふうな楽しそうな音に美咲紀も満面の笑顔になって、猫たちと屋根の上の小さな音楽会に耳を傾けるのだった。

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