猫又川の狐化かし｜リアクション

猫又川の狐化かし

　初島優は『作戦通り』、見事に狐の術中にはまっていた。
「うわぁ～。俺が、俺たちが紙袋戦隊なのだー。泣けー。わめけー。紙袋様の前にひれふすのだー」
術にはまれば、狐は油断する。油断した奴が、わさびてんこもりのおいなりさんを食べる。辛味で苦しんだ狐をみんなが捕らえる。この作戦こそ絶対の成功を見るべしと信じて、優は進んで囮役を買って出たのだ……が、これはこれで楽しそうではある。紙袋戦隊だか、紙袋教だか良く分からないものの夢を見ながら、優は幸運にも深みにはまることもなく、森寄りの場所でふらふらとさまよっていた。木々の合間には、後木真央と協力して作り上げた、涙稲荷セットが置かれている。
「見よー！　紙袋とゴーグルが合わさり最強に見えるではないかー」
優は実際にはかぶっていない紙袋の上から、実際に首に下げているゴーグルをすちゃりと装着する。いつのまにか幻の世界で、優は崇拝者に取り囲まれていた。彼なりに威厳を現すポーズをとりながら踊る。気づいた亜魚隈猯利がすたすたと近づいてきて、心ここにあらぬ優にてきぱきとライフジャケットを着せて去っていった。目にゴーグル、胸にオレンジの救命胴衣、心ははるか彼方。優は狐化かしを満喫していた。
　だが、突然紙袋様を称える民衆は消え、目の前はただの砂利と草むらになる。頭に紙袋の感覚はなくなり、優の珍妙な踊りもぴたりと止まった。優は自分が、眉に唾をつけて狐の幻覚を回避した幻を見る。夢の中で夢を見ているような感覚に優は戸惑った。
「あれ？」
「落ち着け。今のうちに実際に眉唾をしておくんだ」
そう声をかけてきたのは地下帝国仲間の民谷鋭二だった。今度こそ優はまことの現実に引き戻される。猫目が鋭く優を見た。
「え、あれ？　民谷くん？」
「早く。また狐化かしに飲まれる前に」
慌てて優は眉唾のまじないをする。では、鋭二が狐化かしから救ってくれたのか。優が無事だとわかると、鋭二は狐を探しにその場を後にする。もういちど眉唾を行ってから、優は木々の間を確かめた。果たして涙稲荷作戦はどうなったのか。
「あーっ！　わさびだけ残されてるうー！」
狐はイヌの仲間だけあって、鼻が利くのだ。