ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ｜リアクション

ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ

「ラーメンてのは人生そのものだからよ」
　天利二十がラーメン語りを始めたのを、綾辻綾花とミッシェル・ナイスゲイは聞くともなしに聞いていた。
「あれ？」
　綾花はふとおかしなことに気付く。ここはどこなのだろう、確かに屋台でラーメンを食べていたはずなのだが。
「天利さん？」
　いや、確かにラーメンを食べてはいる。ここは屋台だ。自分は天利を挟み込む形でミッシェルと三人で座っていたはずではなかったか。だとしたら、天利は誰に話しかけているのだろうか。
「そうよねぇ、一期一会よねぇ～」
　ミッシェルはこの状況に気付いているのかどうか、天利のよく分からない講釈に相槌を打っている。その手元を見ると自分のラーメンとは違うことに気がついた。同じラーメンを頼んだと思ってけれど、と改めて自分のラーメンを食べてみる。
「この味……」
　それは、綾花がかつて両親と共に味わったことのある屋台ラーメンだった。ずっと昔、もっと幼い頃の話だ。
「もう食べられないと思ってました……天利さんにも食べてみて欲しいです」
　替え玉を頼もうか迷っている綾花がふと天利の手元を見ると、天利のラーメンもまた、自分のものとは違うことに気付いた。
「……あ……それは……？」
「……ああ」
　即席ラーメンだった。ほとんど具も乗ってない、袋から出して５分ほど茹でれば出来上がりの、いわゆるインスタントラーメンだ。
「それが天利さんのラーメンなんですか？」
「ああ……そうだ。まさか俺もここでコレが出てくるとは思わなかったぜ。これだからまったく……」

「所詮この世はラーメンですよね、天利さん？」

「？」
　綾花は、突然後ろから話しかけてきた女性の声に振り返った。
　そこにいたのは屋敷野梢だ。
「学生さんか」
「お久しぶりです、覚えてますか？」
「……できれば忘れていたかった」
「そう身構えなくていいですよー。今日はお金持ってきてますしー」
　梢は悠々と天利の隣に腰掛ける。
「すでになんというか、空間がおかしいですねー」
　梢はこともなく言う。この屋台にはすでに１０人程度の人間がいる筈なのに、梢と天利はまるでふたりだけでラーメンを食べているかのような感覚に襲われる。
　いや、認識しようとすれば天利を挟んでいる綾花もミッシェルの認識できるのだが、そうすると自分がどこに座っているのかという認識が危うくなる。
「あまり考えないほうがいいぜ」
「そうですねー、別に今日はラーメン食べに来ただけですしー」
「そうかい」
　ラーメンを注文する梢。
「最近ちょっと見ませんでしたねー、どうしていたんですか？」
「ちょっと島を離れていてな。何、いつも通りさ」
「そうですかー。でも、珍しくちょっと嬉しそうですねー」
「……嬉しそう、か？」
　天利は自分のアゴのあたりを軽く撫でた。剃り残しの無精ヒゲが、軽く音を立てる。
「ええ、なんとなくですけど」
　そう言った梢の笑顔に、自然と表情が緩んだ。
「そうかい……そうだな……」

「まぁ、俺もちょっと懐かしいのかもしれねぇな」

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