ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ｜リアクション

ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ

「天利さん！？」
　ミッシェルが天利と腕を組んで歩いていると、突然ひとりの少女に話しかけられた。いや、正確には話しかけられたのは天利だけなのだが。
「よぉ、学生さん。元気かい？」
　綾辻綾花だった。ここのところ不在続きだった天利の事務所を定期的に訪れていた彼女は、偶然街を歩いている天利とミッシェルを見かけたのだ。
「元気かい、じゃないですよ！　ずっと事務所に誰もいなくって、溜まってた新聞紙が片付いてたから、帰って来たのかなって……」
「ああ、ちょっと空けてたもんでな」
　それなりに天利の不在を気にしていたであろう綾花をそっけなくあしらうと、天利は歩き出す。自然、綾花もその後を追いながら話しを続けた。
「それで、片付いたんですか？」
「ん？」
「仕事」
「……まあ、ひと段落ってとこか」
　この男に何か言っても無駄だということを悟ったのか、綾花は努めて淡々と聞く。
「じゃあ」
　一気に天利の前に回りこんだ綾花は、ぐっと眼前にケータイの画面を見せ付けた。そこには、ネコッターで噂になっているラーメン屋台の情報がずらりと並んでいる。
「なんだか謎のラーメンの屋台があるみたいなんですよ！　お仕事です……このラーメン屋さんを見つけるのを手伝ってください！！」
　綾花はいつもこうして『仕事』と称して天利に同行を求める。この冴えない４０がらみのオッサンに絡んで何が楽しいものか……と天利も内心ボヤきながらそれに付き合うのが常だったのだが、今日は少しだけ違っていた。
「ワリ、今日は先約だ。その屋台のラーメンを喰いに行くんでな」
「え？」
　天利はそっけなく歩き始め、綾花はその後に半歩遅れてついていく。なんとなくツッコめずにいたが、やはり天利と腕を組んで歩くこの長身かつマッチョな男性、ミッシェル・ナイスガイと天利の関係を聞かずにはいられなかった。
「あの、天利さん……そちらの方とのご関係は」
「あら、決まってるじゃない、二十ちゃんのコ・レ・よ♪」
　応えたのはミッシェルだ。肩越しに振り返りながらピンと小指を立ててみせる。その傍ら、天利の耳元で綾花に聞こえないように囁いた。
「もう、二十ちゃんったら。アタシというオンナがありながら、あんな可愛い小娘とよろしくしてるだなんて、妬けるったら」
　腕をつねられた天利は、苦笑いと共に応える。
「別によろしくしてるワケじゃねぇよ。それに、俺は誰にも縛られねぇのさ」
　そんな会話を聞いてか聞かずか、綾花も引き離されずについてきた。

「もう！　だったら私の仕事も引き受けてくださいよー！　勝手についていきますからねー！！」

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