FEAR THE FORCE：夢幻泡影｜リアクション

FEAR THE FORCE：夢幻泡影

「ぉぉぉぉ……！」
　寝子島高校通学路のまんなか、大勢の生徒がわいわいがやがや、くっちゃべったり足元を見つめたり、ギターや柔道着なんかを担いで歩く若年人口集中地帯、いわばボーイズ＆ガールズのハイウェイのどまんなかで、鬼河内萌は両肩をわなわなと震わせていた。
「ぉぉぉおおおお！」
　声が大きくなる。けれど誰も萌を見ない。見て見ぬ振りすらしない。
　まるで端（ハナ）から見えていないかのように。
　萌の真横を、優等生として知られるクラスメート男子が無言ですり抜けていく。
　すぐ鼻先を、このクソ暑いのにキャッキャウフフと腕組んで歩くカップルが横切った。
　萌が振り向くと、なにか急ぐのか食パンを口にしたままの三つ編み少女が、どったどたと慌ただしく突進してくるじゃないか。
　しかし三つ編みは萌を一瞥もせず、それなのに器用に萌を紙一重で回避して、まるで減速せずに校門にダッシュするのである。
「やっぱり！　やっぱりだよ！」
　両手でガッツポーズ！　ゴリラみたいに胸をどんどこドラミングしたい気分だ。
「やっぱりボク、『もれいび』なんだあああ！」
　両手をメガホンにして叫び回る。近寄って耳元で叫ぼうと、誰も萌をとがめない。
　萌は現在、他の者に自分の存在を感知されないという状態にある。といっても、まったく見えぬ聞こえぬ透明人間になったわけではない。誰もがうっすらと彼女の存在を意識している。だからよけるし、大声を出せば「おや？」と眉をしかめたりもする。
　けれどもまるで路傍の石、萌の存在そのものに気がつく者はいないのだ。もちろん記憶にも残らない。なんというライク・ア・ローリング・ストーン！
　萌がこの『ろっこん』を身につけたのは今朝のことだ。
　前の晩、眠る萌の枕元に香川公王が立った。正確にはそんな夢を見た。
　すると翌朝、萌は知ったのだ。自分がやっと、憧れの『もれいび』になったということを。
　道々、この能力を通学路や街中で試してきた。それはもうすごい効果だ。
　なおこの『ろっこん』は、自分の意思でいつでもオン・オフ切り替え可能というすぐれものである。思わず万歳して萌は叫んだのである。
「まさに神様仏様公王様って感じだねっ！」
　このすばらしい能力を、『認識阻害する程度の能力』と名づけよう！
　……いまいち口当たりの悪い名前だが、そこはよしとする。
　ではでは、と萌は顎をさすった。
「今日は学校、サボらせてもらうとしようか！」
　こんな大胆な独り言も、路傍の石と化した現在の彼女には叫びたい放題なのだ。
　といっても自由な校風を重んずる国立寝子島高校は、実のところ遅刻や早退、自主休学（という名のサボり）にはとても寛容だったりするのだが。成績が急落でもしないかぎり基本フリーに近い。
　さて授業出席のかわりに萌が、本日行くべき場所はただひとつだ。