FEAR THE FORCE：夢幻泡影｜リアクション

FEAR THE FORCE：夢幻泡影

　七枷陣と芋煮紅美は、仲良く並んで走っている。
　といっても愉快な状況ではない。逃走しているのであり、そもそも、仲良く、という部分にも疑問符を付けざるを得ない。
「なんでこんなことになってんのよ！」
「むしろそれは僕が訊きたい！」
　……と、口論しながら逃げているのだ。忙しい。
　途中感じた砂嵐は、急に記憶が回復したことによるノイズのようなものだったのかもしれない。すぐに状態は戻ったものの、たちまち陣と紅美は追われる身となった。
　追ってくるのは気球だ。監視ロボット『テオ』、ずいぶんおっかない気球である。
　校舎から出て裏門を抜け、街に向かってひたすらに逃げる。人混みに紛れれば、テオも手が出せないだろうという計算によるものだった。
　テオはそれほど速度は出ないようだ全力で走ればすぐ引き離せる。しかし、障害物も行き止まりもある地上とはちがって、なんの隔てもない空中をふわふわ浮いて進んでいるため、ややもすると追いつかれそうになる。
　なんとかシーサイドタウン駅近辺までたどりついた。街路樹の陰に入る。
「よし、お化け気球、なんとか撒いたみたいだな……」
　ぜえはあと荒い息混じりで陣は言った。振り返ってもテオの姿は見えない。
　同じく息を上げながら、
「どうせ逃げるなら獅子目クンみたいなイケメンと一緒が良かった」
　と言って紅美は後頭部をかいた。獅子目悠月が『乱心』して逃亡者となったとの臨時ニュースを、ふたりは駅前のスクリーンで目にしたのだった。
「悪かったな、イケてなくて」
「ホント悪いよ！　極悪だよ！　なんであたしがあんたなんかと付き合ってることになってるわけ？」
「それは……どうやらこの世界が、願望が実現した世界だから……？」
「それがおかしーんだって！　あんたごときがあたしと付き合うとかなに妄想してんのよ！　キモキモキモ！」
　紅美は、もう近づくのも嫌だ、と言わんばかりのしかめっ面をする。
「待てよ。それを言うならこっちも迷惑受けてるっての！　なんか変なことまで言わされてるし！」
「変なこと？」
「『今度はもう、離さない』とかなんとか……そんなクサい台詞、僕ならぜってー言わねーっ！」
「何が言いたいわけ？」
「つまり僕にこんな設定を押しつけたのはそっちのほうだろ、ってこと！」
　ハァ？　と紅美は両手を腰に当てた。
「もしかして……あたしとあんたが付き合ってる妄想をしたのは、あたしだろ、って言いたいわけ！？」
「僕が望んでないのにこうなった、ってことは、それしかありえないだろーが」
　無言で、紅美はどすんと陣の腹部に蹴りを入れた。陣は尻餅をついてしまう。
「ぐわっ！　またいきなり暴力か！　乱暴女！」
　その言葉が終わらぬうちに、陣がさっきまでいた場所に電光が走った。
「本機ニハ発砲ノ自由ガ認メラレテイマス」
　いつの間にか、すぐそばまでテオが来ていたのだった。
「感謝しなさいよ、妄想男」
　とだけ告げると、紅美はスカートを翻し走り始めた。
「蹴るならせめて予告してからにせえや！」
　ワイシャツに靴跡を残したまま陣は彼女につづく。
　くそー、さっき一瞬、パンツ見えたってことバラしてやろうか――。
　だが本質的には紳士なので、陣はその考えを胸にしまっておくのだった。