FEAR THE FORCE：夢幻泡影｜リアクション

FEAR THE FORCE：夢幻泡影

　テレビ画面が暗転するや、呉井陽太は思わず立ち上がっていた。
「元の世界のキーって、つまり」
「彼女、だったんだ……」
　鴻上彰尋が言葉を継ぐ。
　志波武道もうなずいた。
　天啓を受けたかのよう、武道は自分の目的をついに理解したのである。
　――そうだ、俺は……フツウを守る為にこうして協力してきたんだ。ののこちゃんが落ちてきたことで始まったナニカを……！！
「学校での異変、屋上で香川博士と対決したとき、博士は王珠を使いたがってない感じだったよな。この世界改変の力をローリスクで使えるとは思えないんだ」
　武道は陽太と彰尋に告げる。
「……公王の弟が、総合病院に極秘入院しているって話を聞いた。俺は弟を見てくるよ、ヤな予感するし、何かあればまた連絡する」

　悠月からメッセージを浮けとったのは、武道らだけにとどまらない。
　テレビのスイッチを切ると、優木遥斗はつぶやく。
「……野々」
　そうだ。この世界には、野々ののこがいない。
　形を変えてすべてはあるが、ののこだけは欠けているのだ。

　効果は、テレビを見ていた者に限られなかった。
　このとき公国のほうぼうで、同時発生的に彼女の名は思い出されたのである。
　
「野々だ……！」
　八神修はその名に思い至り、失っていた記憶を埋めた。

　そうよ！　と尾鎌蛇那伊も声を上げている。
「ののこちゃん！　やだわ～、ワタシ学友の名前をすっかり忘れてるだなんて」
　――そう言えばののこちゃん、こちらの世界では見てないわね。
　どういうことだろうか、隙を見てネットの掲示板あたりに、その名を書いて拡散させるべきかもしれない。
　ただ問題は――。
　蛇那伊は、茂みをかきわけて空を見る。
　テオバルーンがゆっくりと巡回していた。同じ場所をぐるぐると巡っている。
　蛇那伊のことを探しているのだ。うろうろとするその様子は、母猫を探す子猫のようでもある。……といっても、子猫は母猫に電撃を見舞ったりはしないだろうけども。
　あっという間にお尋ね者になっちゃったからねえ、記憶を取り戻すのが罪だってのかしら。
　偽りの設定だったとはいえ蛇那伊は妖怪ハンター、追うのは得意だ。
　だが逆に、追われるのは苦手なのである。
　こんな調子で夏の宮殿までたどり着けるだろうか、いささか不安であった。

「まったく」
　御剣刀は咳払いした。
「あのアホの子を忘れてたなんてな……毎度のことだがあいつに何かあるとフツウが壊れる気がする」
　振り返って刀は呼びかけた。
「おいテオ、ロボットじゃないほうのテオ、無事か？」
　毛を逆立てた猫が物陰から出てくる。フーッと低い声で猫はうなった。
『その呼び方、気に入らねぇな』
「はは、悪い悪い。そう怒るな」
　刀の足元には、スイカ割りのごとく真二つに割られたテオが落ちている。もちろん、ロボットのほうの『テオ』だ。
「さしあたって、どうする？」
　めり込んだ硬球を残骸から取り戻すと、新田亮は立ち上がって問う。
　刀が答えた。
「香川のいるところを目指すとしようか」
「夏の宮殿か」
　両手のハンマーグローブを、バスンバスンと打ち当てながら亮は言った。