６月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

６月の☆ハッピーバースデー

【律儀なアケーチさん】

　カレンダーを見つめます。
　くわっ！　アケーチ・タッマーキの片目が見開かれます。
　そして叫びました。
「今日は美和さんの誕生日ッ！！」
　寝子島高校の国語教師、生徒たちに親しまれる久保田美和先生と、アケーチは顔見知りだったりします。ていうか、マンションのお隣さんだったりします。ひょんなことから彼女と知り合い、お化粧をしてあげることになったり、その後もなにかと会えばひと言ふた言会話を交わしたり、これがけっこー仲良しさんだったりしました。人の縁とは分からんもんですな。
　ともかく、そんな美和ちゃんセンセーのお誕生日が６月であるのだと、アケーチは以前に聞いたことがありました。
「確かあの時は、朝の占いでふたご座が一位だったとかで、たいそうご機嫌だったのですよね。ふふ……」
　にっこりにこにこ、飾らないあの笑顔を思い浮かべると、アケーチも思わず頬が緩んでしまいます。
　あの笑顔をまた見たい。そう思うのはきっと、必然であったことでしょう。
「せっかくのお誕生日。ぜひともお祝いさせていただきたいッ！！」
　くわわっ！
　かくしてアケーチは、美和先生の誕生日を素敵なプレゼントで彩るべく街へと飛び出していきました、ムダにくるくる回りながら。

　寝子島シーサイドアウトレットにて。
「誰かのお誕生日をお祝いするのは、初めてですね」
　自分もうきうきとしてしまいながら、アケーチはお店を渡り歩き、美和先生にふさわしい贈り物を探します。
「もっとも、記憶をなくす前のことは分かりませんが。ふ、ふふ……！」
　かつてのアケーチも、もしかしたら、誰かの誕生日を祝ったことがあったかもしれません。いっしょにその日を過ごす、親しい誰かがいたのかもしれません。
　けれど、その誰かを思い出せないことを悲しむ余裕は今のところ、ありません。
　なにしろ星幽塔にしろ寝子島にしろ、アケーチの周りには彼に負けじと愉快で個性的で、そして愛おしい面々が、それはもうたくさんたくさんいらっしゃるのですから！
　もちろん美和先生もまた、そのひとりというわけでして。
「……おや？　これはこれは」
　なんてことを考えながらお店を巡っていると、ふと。店先にディスプレイされているある商品に、アケーチの目がとまりました。
　吸い込まれるように見入りながら、アケーチはにっこり。
「プレゼントは、これで決まりですね……！」

　そんなわけで、お誕生日当日。
　学校の授業も終わり、美和先生は軽やかな足取りでご帰宅……というところで、
「おかえりなさい、美和さん」
「あら！　こんにちはー、明智さん。今からお仕事ですか？」
「いえいえ。実は、美和さんをお待ちしていたのです」
　アケーチを一風変わったヘアメイクさんだと思っている美和先生、きょとん。
　目をぱちくりと瞬かせる彼女へ、アケーチは恭しい仕草でプレゼントを差し出しながら、言いました。
「お誕生日おめでとうございます」
「……へっ？　これ、私に？」
　アケーチが手渡したもの……それは、一本の傘でした。やわらかく淡い紅色が、寒々しい雨の日にも心をぽかぽかとあたためてくれそうです。持ち手には、かわいらしいハートのチャームも付いています。
　とたん、美和先生のお顔が輝いて、
「わぁ、いいんですか！？　ありがとうございます……！」
「いえいえ。大したものではありませんが。よろしければ、一度開いてみていただけませんか？」
「えっと。こうですか？」
　促されて、美和先生は赤い傘を広げます。
　すると、どうでしょう……ぱっ！　裏地に、鮮やかなブルー。晴れ模様の爽やかな青空が広がっているではありませんか！
「良き一年となりますように。ふふ……♪」
　青空模様の鮮烈さに思わず言葉をのんだ美和先生。アケーチの微笑みに、ますます笑顔を深めます。
　ちょっとしたお隣同士。きっとこの日を境に、ふたりの間柄はより親しくなったことでしょう。アケーチの胸にも、抜けるような青い空が広がっておりました。

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