仮のちぎりを　いかで結ばん｜リアクション

仮のちぎりを　いかで結ばん

「よっし！　僕はこれで。それじゃチョーさん、佐藤君、ちぎり君。またね！」
ちぎりをなで、入ってきた時と同じ勢いで晴海飛鳥は出て行く。ふと足を止め、振り返って問いかけた。
「ああチョーさん。最近変わったこととかない？　力がみなぎってきたー！　とか、ビーム的な何かが出せるようになったとか」
面食らったような顔。笑いとともに、そんなのちっともないよ、という返事があった。

「ろっこんはもれいびじゃない人がいるところではちゃんと発動しないんじゃなかったっけ？」
なのに、ちぎりはのべつ幕なし水を流している。武治も、何の変化もないと言った。どうにも腑に落ちない。
「うーん！　考えるのはやめやめ、行動あるのみ」
頭を振って、気持ちを切り替える。
「餅は餅屋。この島でいちばんろっこんに詳しい人に話を聞いてみようか。人じゃないけどね」
飛鳥はその、ろっこんのエキスパートを探して歩きだした。

　残った佐藤英二は長南武治と言葉を交わしながら、ちぎりの世話を続ける。
「なにかすばらしい解決手段を講じられたらいいんだけど、僕には思いつかないみたいで。せめて、誰かが何か、いい方法を見つけるまでは、こうして世話をしてやりたいんです」
「それだけで十分にちぎりちゃんは幸せだと思うよ。助かっている人はたくさんいる。ありがとうね、佐藤くん」
日に焼けてしわだらけの武治の顔が笑顔になる。
「このままじゃ野生は無理ですよね。誰かが飼育するしかないんでしょうか」
「そうできたらいいんだけどね。カラスは野鳥だから、個人で飼っちゃいけないんだよ」。
武治も役場に問い合わせはしたらしい。野鳥だから個人での保護は禁止、しかし害鳥だから自治体でも保護はしないのだという。法を守るなら、ちぎりは野生に返すしかないのだ。お役所仕事って、そういうものだ。英二は苦々しい気持ちになるが、だからといって規則を変えることはできない。
（それでも、僕ができることはやっていきたいんだ。投げ出したくないよ）
今自分ができること。英二は吸水スポンジを固く絞ると、もう片方の羽を拭き始めた。