【星幽塔】第一階層　にじり寄る蛇影｜リアクション

【星幽塔】第一階層　にじり寄る蛇影

　しゅるしゅる、しゅるしゅると音を立てながら大蛇はうねる。五本の首を持つその大蛇、ハイドラはたっぷりと実った畑の上を荒らし、蔦や茎を絡ませ、落としながら城下へと進んでいく。その首の一本に、兵士の放った矢が突き刺さった。白い鱗を持つその首は、矢の出どころである兵士を見つけると大きな首をがばりと開け、白い息を吹きかける。兵士が呆気に取られていると、足の先からその身体は石へと変わっていった。石化していくのは矢を放った兵士だけではなく、その周囲に居た者までも巻き添えになる。
　逆上した兵士が紫の鱗を持つ首に切りかかると、バチバチと火花が上がり、剣を持つ腕ごと――否、身体ごと黒焦げになる。ハイドラは群がる兵士を見ると、緑の鱗を持つ首で息を吹きかけた。

「ううっ……」
「毒だ！　逃げろ！」
「くそっ、援軍はまだなのか！」

　息のかかった兵士は喉元を押さえ、次々と倒れていった。

「伝令が行ってるはずだ！　すぐに戻ってくる……だからそれまで持ち堪えろ！」
「でもほとんどが子供って聞いたぞ」
「大人の俺たちでさえこうなのに……本当に勝てるのか！？」
「馬鹿だな、ここで大人か子供かなんて……おい、後ろ！」
「なんだよ……うわーっ！？」

　振り向いた兵士の上に、灼熱の劫火が降りかかる。畑もろとも燃やし尽くしたその息を見て、後方に構えていた兵士の一部は逃げ出し始めていた。

「逃げんじゃねえ！」
「こんな状況で逃げ出さずにいられるか！」
「そんな事したらどうなるかわかってんのか！？」
「わかってらぁ……当面の給金は貰ってんだ。賊にでもなんでもなって生き延びてやるぜ」
「こいつ！」

　揉めている者は、その下を走るしゅるしゅる、しゅるしゅるという音に気付かない。

「へへへ……どうせ死ぬんだ。お前も装備と有り金全部置いて来な！」
「お、お前……！　上！」
「あぁ！？」

　上を向いた彼の目の前には、青い鱗の蛇の顔があった。

　五色の首が兵士たちを屠り、その上を奔る。畑は一部燃え、凍っているが、まだまだ広く、城下町までは未だ距離があった。ハイドラが次の獲物を探していると、その前方、街の方から15人の勇士が駆け付けた。星の光を宿した、ファンタジックな装いに身を包んだ彼らはハイドラを見つけると、

「あれがハイドラか……」
「ふ、ふふふ……！　ぞくぞくしてきました……！」
「先に怪我人の手当てをします！　まだ生きてるかもしれません！」
「そうだね。俺も手伝います」

　と口々に武器を構えた。癒しの光を持つ者が倒れた兵士の救護にあたる。風が吹き始めた。バチバチと稲妻が走り、ハイドラがにゅっと首を伸ばす。その前へ八神修と椿美咲紀が立ちはだかった。そしてその後ろから、

「当たれぇっ！！」

　と、水上桜が放つ矢が飛んでくる。とにかく総当たりで、と放たれるそれはハイドラの動きを一時的に止めはするものの、決定打には至らない。修と美咲紀はその矢の隙間を避けながら、ハイドラ第四の首への攻撃を始めた。

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