【星幽塔】第一階層　にじり寄る蛇影｜リアクション

【星幽塔】第一階層　にじり寄る蛇影

「う、うーん……」

　桜はぱちぱちと瞼を動かし、朦朧とした意識がはっきりしてくると、身を起こして辺りの様子を伺った。空にあの大蛇の首は見当たらず、こちらを心配そうに覗き込む兵士の顔と、風を受けて葉を揺らす畑があるばかりだ。彼女の意識が戻ったことがわかると、兵士は口を開いた。

「大丈夫か？　嬢ちゃん」
「桜ですー……ハイドラは？」

　もっともな疑問を述べると、桜はまたきょろきょろと辺りを見回してハイドラを探す。兵士は微笑を向けて、彼女の肩を叩いた。桜は周囲の雰囲気と兵士の反応を受けて首を傾げる。

「もう大丈夫だ。終わったぜ」
「い、いつの間に！？」
「気絶してる間に」
「ウソ！？　だってあれって……」

　桜は勢いよく立ち上がり、兵士の指さす方へ走った。着いた先に広がっていたのは、五本の首をスッパリと断ち切られ、こと切れたハイドラの死骸である。桜は目を丸くして、思わずこう叫んだ。

「本当に死んでる！？」

　ミハイルはハイドラの亡骸に手を添えて、祈りを捧げた。

「彼の来世に豊穣があらん事を」

　先程までの激闘が嘘のように、場はしんと静まり返り、厳粛な雰囲気すらあった。弔いの祈りを終えた後、ミハイルは兵士の方を向いて、真剣な面持ちでこう言う。

「俺としては政府が彼の亡骸を生かす事を望む。奪ったものの務めだ」
「ああ。そうするつもりだ」

　兵士もそれに頷こうとしたが、そこに修と美咲紀が割って入った。

「待ってくれ」
「報酬としていくつかいただきたいのです」

　尤もだが相反する頼みに、兵士はうーん、と唸りながら仲間と相談し始めた。それから暫く辺りはざわざわと騒がしかったが、やがて話し声が終わり、またしんと静まり返る。そして、兵士はミハイルたちと修たちを交互に見てから口を開いた。

「あんたらが要るだけ切り分けて、あとは俺たちで処理させてもらうよ」
「それでいいか？」

　修と美咲紀が頷いて、それに答える。報酬の分配が終わると、ハイドラの亡骸は馬車に積まれ、城下へと運ばれていった。

「さーて！　飲みましょう皆さん！　打ち上げです！」

　BARアストラルではリリエルが明るい笑顔で杯を運び、ぼんやりと燈の灯った店内を行き来している。その隅の方にあるテーブルで、ベルラは杯を傾けて口を開いた。

「アレは……何か目的があって突如現れたのか？」
「さあな」

　その言葉を聞くと、グレッグは肩を竦めて笑う。

「だが、また現れる気がする」
「それはなんだ？　勘か？」
「勘だな」

　なんだそりゃ、とベルラは笑い、グレッグも笑い返して、そんなこんなで夜は更けていった。

　しゅるしゅる、しゅるしゅる……。
　それから数日後、星幽塔のどこかで、蛇の蠢く音がした。

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あとがき

担当マスター：六原紀伊
ファンレターはマスターページから！

六原です。
皆さまのお陰で無事ハイドラが討伐され、第一階層に平和が戻りました。
参加ＰＣの皆さまにはハイドラの鱗、骨、牙、肉、内臓など様々な部位が報酬として配られてます。
よかったら武器や料理・薬の素材としてご利用ください。

星幽塔が舞台のシナリオを手掛けるのは今回が初めてだったのですが、たくさんの人にご参加いただいてとても嬉しいです。
ありがとうございました。

次回ガイドは【魔界すごろく】です。
そちらでもご縁がありましたらその時はよろしくお願いします。

それでは皆様、ご参加、ありがとうございました。

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