異世界クリエイター、始めました｜リアクション

異世界クリエイター、始めました

●海を守るもの《モビーディック》

　《管理人》の話を聞いたエリオット・Ｅ・シートンは、ふむ、と顎に手を宛がった。
「２つのタネで、世界を作り変える……荒廃した世界を再生と来ましたか」
　突っ込むべきところは多いですけど、と苦笑して、それでも、エリオットは歩き出す。
　辿るのは、毒の小川だ。
　見渡す限り、寒々とした荒れ地が続いてこそいるけれど、
「川があるということは、海に繋がっているはずです」
　水族館で働く彼は、陸地に関しては他の救世主達に任せ、海に手を加えるつもりなのだ。
　毒々しい紫色をした小川が流れるその先へと、ずんずんと歩みを進めていく。
　小川を横目に、エリオットは、少しだけ眉根を寄せた。
（……海に手を加えるにしても、この毒の川は、何とかしたいところですけどね）
　ともあれ、先ずは海に辿り着いてからだ。
　歩いて、歩いて、歩いて、足が痛くなり、息が乱れるほど歩いて。
　エリオットは遂に、この世界の《海》を目にするに至った。
「これは……」
　海岸に降り立って、思わず、言葉を失う。
　目前に広がっていたのは、川と同じ紫色をした海。
　暫し呆然としたあとで、エリオットは、ふう、と深いため息を吐いた。
「……まぁ、あり得なくはないんですかね。川の毒がそのまま、注がれているわけですし」
　しかし。
「このままでは、僕が望む、海獣達がのんびり過ごせる世界の構築は難航しそうですね」
　１つ目の金のタネで、海にアシカ達を生み出そうと思っていたエリオット。
　けれど先ずは、２つ目の金のタネを使う予定だった生き物を、創造する必要がありそうだった。
　手のひらの中の金のタネに、願う。
（海を管理し、陸にも干渉できる、ポセイドンやわだつみのような《海の神》に近い存在をこの世界に）
　途端――頭上に、黒々と影が差した。
　見上げればそこには、悠々と空を飛ぶ、白いシロナガスクジラの姿が。
　それは、エリオットがイメージしたそのままの、美しく荘厳な様子で空高くを泳いでいた。
　吹いた潮が、霧のように、優しい雨のように、毒の海へと降り注ぐ。
　飛沫を浴びながら、エリオットは目前で繰り広げられる出来事に見惚れた。
　煌めく滴を受ける度に、海は浄化され、清々しい青色へと変わっていく――。
　やがて、澄んだ水を幾らともなく湛えた海を前に、エリオットは小さく笑んだ。
「海の管理は、彼――《モビーディック》に任せてしまって良さそうですね」
　そうしてエリオットは、今度こそ安心して、もう一粒の金のタネを使った。
　海岸に、沢山のアシカが生まれて、おうおうおうおうと、歓喜の鳴き声が辺りに響く。
　アシカ達は、創造主たるエリオットへと、いかにも嬉しそうに懐いてきた。

「海岸でのんびりってのも、うん、いい感じですね」
　エリオットがアシカ達と戯れるその頭上を暫しぐるんぐるんと回ったあとで、
　――オオーウ！
　《モビーディック》は一声鳴くや、エリオットが元来た方角へと、ゆったりと飛んでいく。
「毒の川や陸地を、清めに行くんですね」
　世界の成り行きを時間が許す限り見守ろうと、
「じゃあ、どうか、元気で過ごしてくださいね」
　と、アシカ達に別れを告げたエリオットは、そのまま《モビーディック》を追いかけた。

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