ネココーで朝食を｜リアクション

ネココーで朝食を

【彼女の笑顔】

　うわぁ、美味しそう！　と目を輝かせる彼女の横顔を、八神修は思わずじっと見つめてしまいました。
「どれにしようかなぁ……うん？　どうしたの修君？　後ろ、詰まってるよ」
　七夜あおいがくりっとこちらを向いて、修は照れ隠しに、すぐにも並ぶメニューの数々へ目を落とします。
「っと、すまない。迷ってしまって」
「分かる分かる！　だってこんなに盛りだくさんなんだもん♪」
　朝からこんなに楽しそうなあおいの姿を見られるのは、修にとってなによりの眼福です。今日はなんだか、いいことがありそう！　なんて気分にさせてくれます。
　それはそうです。だって、好きな女の子に声をかけられて、嬉しくない男の子なんてきっといやしませんもの！
「嬉しいよ。あおいに声をかけられて」
「だって、せっかく学校で朝ごはんを食べるなら、友だちといっしょのほうが楽しいから」
　あおいがにっこりと笑えば、それだけで修の胸にはあたたかい、幸福な気分がじんわりと満ちていくのです。

　空席に向かい合って座ると、さっそくお互いのメニューをチェックです。
「修君はなににしたの？」
「俺は、写真映りを考慮してみたよ。画的に統一感が欲しくてね」
「ふふ、修君らしい」
　デジカメのファインダー越しに映るのは、玄米にのりの佃煮をトッピング、主菜はさばの味噌煮を選び、ほうれん草のゴマ和えにしじみとネギのお味噌汁を添えています。どこかの料亭か旅館の朝食として出てきてもおかしくないような、見る人がなんだかほっとしてしまうようなラインナップです。
　いっぽうあおいの選んだものは、雑穀米のしらす乗せ、豚肉のしょうが焼き、ポテトサラダになめこのお味噌汁です。
　修は自分のものとあおいのメニューを、それぞれぱしゃりと写真に収めました。
「う～ん、豪華！　１００円とは思えないよね」
「本当にね。理事長に感謝しないと。それじゃ、食べようか」
　ふたり揃って、両手をぱしん。
「「いただきます！」」
　ほうれん草のゴマ和えをひと口。しゃっきりした食感に、ごまの香ばしい香りがたまりません。お味噌汁をすすると、濃厚しじみ出汁が朝から目をぱっちりとさせてくれました。
　さばの味噌煮はおはしで簡単に身が崩れるくらいほろほろで、ぱくりとほおばると、お味噌の甘味と身のやわらかふんわり食感の、このなんとも言えないハーモニー！
　ひとつひとつを味わっていただいていたら、不意にぱちくり。あおいと目が合って、
「あ、ごめん。お魚も美味しそうだなーって」
「うん、美味いよ。おかず、ちょっとずつ交換する？」
「いいの？　やった♪　はいっ、しょうが焼き。こっちも美味しいよー！」
　なんて。食べている間にも、あおいの表情はなにかところころ変わります。どれも楽しそうで、美味しそうで、幸せそうです。
　ついつい、ぽろり。修の口から、言葉がこぼれました。
「なんだか……いいもんだな。こういうの」
「こういうの？」
「朝はいつもひとりだからね。こうやって会話をしながら食べるっていうのは、新鮮で、楽しいよ」
　このまま時間が止まればいいのに。と修は思うものの、照れくさくて、口に出すのは止めておきました。
　代わりに自然と、言葉はあふれ出てきます。
「高校に入学する前もね。両親は多忙であまり家にいなかったし、朝をこんな風に食べるのは久しぶりだよ」
「そっかぁ。私は、寝子高に入ってからは寮で食べてるし、それまでは実家で、ほら……」
「ああ、あおいの家は大家族だったっけ。６人兄弟のお姉さんだったね」
「そうそう！　朝なんてもう、大忙しですごいんだから」
「はは……」
　七夜家の賑やかな朝食風景を想像したら、修は楽しくなってしまうのと同時に……ほんのちょっぴり。しんみりとしてしまったようです。
「だから……そういう家庭的なのって、憧れるんだ」
「ふうん、そういうものかな～。実際は、けっこう大変だけどね」
「そうかもしれない。でも、楽しそうだよ」
　ええー、そうかなぁ？　なんて言って浮かべたあおいの苦笑いさえも、修の幸せを引き立ててくれる、魔法の調味料なのです。

「「ごちそうさまでした！」」
　すっかり綺麗に食べ終えて、トレイをカウンターに戻したところで、
「そうだ。あおい、昼もいっしょに食べないか？　弁当を作りすぎてしまって」
「本当？　それじゃ、ごちそうになっちゃおうかな♪」
「そうか、良かった。ありがとう理事長」
「え？」
「いや、なんでも。じゃあ、楽しみにしてるよ」
　朝食から流れるように、お昼の約束まで！　修は心のなかでガッツポーズをキメながら、こんな企画を考えてくれた桜栄理事長先生へ、深く深く感謝するのでした。

このページにイラストを設定する

ネココーで朝食を

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧