＜零神探訪＞青の幽玄（ブルー・アルカディア）｜リアクション

＜零神探訪＞青の幽玄（ブルー・アルカディア）

●終息

　無言のまま聖域をあとにし、ぬめりけのある天然岩の回廊を抜け、太陽と月の扉まで戻ってくると、志波武道が大騒ぎで出迎えた。
「みんな、オカエリ！　こっちは大変だったよ、ジンって名乗る人が現れて……そっちの首尾は？」
　彼の顔を見ると皆ほっとして、いっぺんに堰を切ったように話し出す。
「わぁ！　一人ずつ順番に喋ってよー！」
　こうして、絶神のことが語られ、クロードのことが語られ、その末路が語られた。
「で、こっちのジンさんは？」
　神薙焔が「もう何があっても受け入れるわよ」くらいな大らかな気持ちで訊ねる。
　武道が言うには、
「こっちのジンさんが、本物らしいんだよ。麓の村に住んでて、師匠のウン・ウェンダオを探しに来たら、黒衣の化け物に首筋を噛まれて、今の今まで気を失っていたって……念のため男児の尿はないかと言ってる」
（あ、やっぱり尿なんだ……）とサキリ・デイジーカッターは思う。
　八神修が余っていたもち米を分けてやり、傷口に当てて消毒してやる。これも僵尸に噛まれたときに効くという方法のひとつだった。ついでに余っていた札も口に含ませたし、元気そうだから僵尸化の心配はないだろう。
　落ち着いた頃合いを見計らってサキリがウン・ウェンダオの手記を渡してやると、彼は師匠を助けることは叶わなかったのだと知り、ほろほろと涙をこぼした。
　サキリは首にかけていた八卦銅鏡を、青年の首にかけてやった。
「師匠さんのです。お返しします」
　それから桃木剣も焔に。
「ありがとう」
「どういたしまして」
　彼はこのあと故郷に帰り、この話を伝えるだろう。
　そして、師匠の仕事を継いで、立派な道士となってゆくことだろう。
（この経験と涙があれば、師匠の轍を踏んで、不老不死などという劇薬に手を出すことはないだろう）
　そう、サキリには思えた。

「このあと、どうするつもり？」
　音海なぎさが坂内梨香に訊ねた。
「そうね。まずはこの村を出ましょう。そのあとのことは、それからね」
　なぎさはゆっくりと太陽と月の扉を閉め、その彫り物を見つめた。

　　　紅き珊瑚球。火星の象徴。
　　　蒼い理想郷。青の小惑星。火星と木星の間。

　謳うように呟く。その声に、梨香はそっと耳を傾けた。
　梨香だけではない。みな一様に口を噤み、なぎさの謳うような独白に耳を傾けている。

　　　月と太陽の間。
　　　蒼き世界。つまり、地球？
　　　……零神が目指し、落下してきた星。
　　　その混沌を乗り越え今の平和。
　　　零神を追いかけるボクらへの、何かの試練だろうか。
　　　それを超えた先に、目指す場所が？

「試練を超えた先に、目指す場所が……」
　梨香は、クロードが落して行った青珊瑚の珠を握りしめる。それから毅然と顔を上げる。
「みんな、脱出よ！」

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