マンガの中に飛び込もう！　海賊編｜リアクション

マンガの中に飛び込もう！　海賊編

「……ここ、どこ？」

　茫然とした声。気付いた時には羽生碧南は大きな帆船の甲板にいた。
　混乱しかける頭をそれでも何とか落ち着かせて、周囲を見渡し思考を巡らせる。

　碧南が覚えている限りの最後の記憶は昼休みの教室で昼ご飯を食べた後、少し眠くなったのでうたた寝をしていたところだった。そして、目が覚めたらこんなところにいたと言うわけだ。
　碧南が自らの格好を見てみれば、裾を縛ってへそ出しにしたタンクトップの下にトライアングルビキニ、ぴっちりした所々が破れたジーンズという格好だった。背が高く、また女性としてのスタイルも良い碧南には似合っており、特にジーンズの破れた箇所から見える太もも部分が眩しい。
　そして、手には何だか良く解らないけど長い鉄か何かで出来たと思わしき棍を握っている。

　碧南からすればこの格好は何だか海賊っぽい格好のように感じられた。大体のところ、周囲にいる人間はどう見ても皆が皆、海賊だ。
　所々にどこかで見たような顔があったりするが、一体どこで見た人物だっただろうかと考えて、とある漫画の登場人物にそっくりだと言う事に気付く。

「えーと、これってもしかして海賊漫画の世界……よね？」

　そう。見覚えのある顔はどれもとある海賊漫画に出てくるキャラ達なのだ。碧南自身はジャンルとしてはその海賊漫画とはまた別の物が好きなので、ずっとその海賊漫画を追っているわけではないが、それでもかなり有名な漫画である為にある程度は読んだ事があった。

「うん？　何か海軍がどうとか言ってる？」

　見覚えのある船長が何か言っているのだが、その内容からどうやらこれから海軍と戦う羽目になるのかもしれないと碧南は気付く。

「そう言えば、ここがあの漫画の世界なのは解ったけど……。私ってどういう立ち位置なんだろう？」

　船長の方に視線を向ける。けして大柄と言うわけでなく化け物染みた外見をしてはいない。赤い髪の渋い男性といった風貌だ。
　だが、碧南が知る限りではこの船長は漫画の中でも有数の実力を持つ海賊だった筈。彼の海賊団には女性もいるにはいたが、見覚えのあるキャラは全員確認する事が出来た。

　つまり、碧南が有名なキャラと入れ替わっているというわけもないようで、そうなるとただの下っ端海賊A的な立ち位置なのだろうか？
　そうなると、大した力もないという事になり下手すればあっさり死ぬなんて事もあり得るわけで。

　そんな事を考えていると、大きく海賊船が揺れる。
　碧南が何だ何だと辺りに目を巡らせれば何時の間にやら帆船がボーディングして来ており、その帆船から様々な武器を持った沢山の海兵が流れ込んで来た。
　当然ながら海兵達は碧南を見逃すという事もなく、彼女の方へも押し寄せてくる。

「ちょ、冗談よしてよっ！　か弱い乙女を屈強な海兵が集団で襲うとか──」

　しかし、そんな言葉と裏腹に碧南の身体は勝手に動く。手に持っていた棍を縦横無尽に振るう、振るう。
　さながらその様はまるで嵐の如く。気がづければ、碧南の方へと向かってきていた海兵は軒並み薙ぎ倒されていた。

「……へ？」
「なっ！　貴様、剛腕かっ！」

　剛腕？　え、剛腕？　失礼な、この腕のどこが剛腕だと言うのかと碧南は見当外れな怒りを抱く。だが、先程の光景は剛腕と呼ばれるのに相応しいのではないだろうか。
　碧南は未だに良く理解していなかったが、先程の動きと良い海兵達の反応と良い、どうやら自分が凄く強いのだという事だけは理解した。

「ふふー。こうなったら大暴れよ！」

　その事実に気を良くした碧南は棍を一回転させると、海兵達の元へと突撃して行く。
　そして、どんどんと突き進み敵の旗艦に乗り移った挙句にそこでも大暴れをする事になる。