マンガの中に飛び込もう！　海賊編｜リアクション

マンガの中に飛び込もう！　海賊編

「夢か？　例によっていつもの神魂異常か？」

　その発言の内容や彼の声色。そんなところから八神修がこういう事態に慣れているという事が良く理解できた。彼からすれば正にいつもの事なのだ。
　修がいるのは幾つものマストが立つ帆船の上であるようだった。身体で感じる揺れは波によるものだけではないだろう。そもそもの話、大砲の砲撃音だと思える音が聞こえてくるし、今の自分の恰好もなんだか漫画に出てきそうな海賊か何かの格好に見える。

「とりあえず、色々考えるのは乗り切ってから、だな」

　マストを背に踏ん張ってから周囲の状況を確認する修。
　そうして把握した限りでは、この船は海賊船のようでありそして、今海軍の船に襲撃されていると言ったところのようだ。
　お互いの船の配置や船の向きなどを考えると、どうやら海軍が群島に隠れていて湾の出口で待ち伏せをしていたのではないかと考えられた。

「なら、前方に突破するしかない」

　修のその呟きと同時に船もまた加速を始める。どうやらこの船の船長もまた修と同じ考えであったらしい。
　前方にも当然敵はいるが、そこしか突破口はないだろう。

「さてと……。どうやら今の俺は特殊能力を持ってるみたいだな」

　修の脳裏に浮かぶのは今の彼が持ち得ている能力についてだ。
　そもそもこの船での修の立場は船長を助ける参謀兼術師というものだ。接近戦、肉弾戦は他の仲間に比べて劣るが、その分術師として術でのサポートや知識、洞察力で事態を打開したりするのだ。
　術師としての能力はとある実を食べた事によって得た水を自在に操るというもの。海を活動場所とする海賊としては破格の能力だと言えるだろう。
　

「出し惜しみは無しだ！」

　まずは周囲の海水を操って、船や味方をコーティングして行く。一見するとただ水を纏っているようにしか見えないがその防御能力は強靭の一言である。
　それから次に包囲を突破する為の一手として海流を起こし、速度を上げる自船の加速を手助けし、逆に相手の船の邪魔をするように操作。

「敵が撃って来るぞぉ！」
「俺に任せろ！」

　誰かの声に修が返す。まるでコンダクターであるかのように腕を動かせば海から水の柱が何本も突き立ち、それらが合わさったかと思うと壁に変じる。
　ただの水だと思う事なかれ。それは内部で常に流れている水だ。つまりは砲撃をも受け止めるだけの防御力を有しているのだ。

「船長！」
「あぁ、何だよ、こんな時にッ！」
「全力を出す。後は任せたぞ！」
「はぁ!?」

　身体の底から力を振り絞る修。腕を広げればそれに合わせて船の周囲に幾つもの巨大な水球が浮かんだ。それは修の能力による砲台だ。

「撃てぇ！」

　修の叫びと共に巨大な水球からは水の砲撃が斉射される。その様は砲撃というよりもどちらかというとビーム兵器を思わせる。
　当然ながら、その結果もそれに等しく、水の砲撃に晒された海軍の船は大穴を開けている。

「無茶しやがって！　おい、前方開いたぞ！　そのまま突っ込め！」
「まだ、まだぁ！」

　船長の指示に船が勢いのまま前へと進む。修による加速の援護もあって、後方の海軍の船との差は開く一方だ。
　だが、しかし、未だに砲撃は飛んできているのだから、油断は出来る状況ではない。

「後方にっ水壁っ！」

　そう叫んで自分達の船の後方に水壁を作ると同時に修は倒れる。どうやら限界を迎えたようだ。

「あ、ヤガミンここに眠る」
「おい、ふざけるな、死んで、ない」

　この声は船長の声だと修は思うも、もう目を開けておく事さえできない。手探りで回復薬を探すのすら苦労する有様。
　というか、この声、どこかで聞いたような。そう、最近良く話しているような――。

「はっ」

　転寝から目覚める修。そこはいつもの教室だ。
　何だ、夢だったのかと思うもポケットを探るとそこには夢で探していた回復薬の小瓶があった。

「……は？」

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