マンガの中に飛び込もう！　海賊編｜リアクション

マンガの中に飛び込もう！　海賊編

「俺たちファンがこんなにいるのか。照れるね」

　剣やら銃やらを持って殺気立つ集団を前にあまりにも軽い言葉を口にする新田亮。
　今の亮はとある海賊団の切り込み隊長であった。背に鳥のような翼を持ち、それにて自由に空を飛ぶ海賊。人は彼を疾風と呼んだ。

「いやいや、兄貴。こんな物騒なファンなんていねぇですぜ」

　状況にあまりにも即していない発言に、亮の部下の一人がツッコミを入れる。それは彼らにすればいつも通りの光景だ。
　亮やその部下がファンと呼ぶ者達は、実際には当然のようにファンではなく彼らを討伐しに来た海軍である。

「何言ってんだ。こうして俺達に会いに来てくれてるんだ。ファンと言っても過言ではないさ。記念にサインしてやらなきゃな」
「サインってどこにすんですかい？」
「そりゃあシャツに決まってるだろ。赤い文字できっちり入れてやるさ」
「何という物騒なサイン！　いや、兄貴が物騒じゃない事なんて女抱く時くらいっすけど」

　シャツに入れる赤いサイン。要は切り刻んでお前の血でシャツを染めてやるという事である。物騒にも程があるというものだ。

「お前らもサイン会、しっかり楽しめよ！　往くぞ！」

　亮のトレードマークともいえる翼が羽ばたき一つする。それが合図であったかのように海賊と海軍、それぞれ互いに突撃を始めた。
　決戦の始まりである。

「ほらプレゼントだ。ピカピカで奇麗だろ！」

　亮が海軍の一人に向けて光輝く刃の剣を投げつける。それは亮がとある冒険にて手に入れた宝の一つだ。その剣の事は海軍も把握しており、その希少性を理解していた。それ故にまさか投げつけるなんて事をしてくるとは思いもよらずに投げつけられた海兵はその切っ先に貫かれる。

「ぬるい、甘い、遅い！　お前ら、まさかその程度で俺に届くなんて思ってんじゃないだろうな！」

　大地を蹴り空へと舞い上がるとそのまま亮は海軍が密集しているところで突撃していく。
　例の光る剣の刀身を伸ばしたかと思えば、それを無造作に振り切る。周囲が敵だらけだからこそ出来る芸当であり、一瞬にして懐に飛び込める身のこなし、反応すら許さない剣閃の鋭さ等、特筆するべきところは様々あるが、本当に驚くべきなのは敢えて敵の中に飛び込む事が出来るその胆力だろう。

　あまりにもな光景に瞬間、海軍達の動向が固まる。化け物のようなこの男に勝てない。そんな思いが彼らの動きを鈍らせているのだ。
　だが、闘争こそを求めている亮にすればそれは良くない事だ。闘争は互いが互いを殺さんとするからこそ闘争なのだ。

「おいおい、しょぼいコーラスだな。お前ら、俺達を狙ってここまで来たんだろう！　お前らの海軍としての矜持はその程度なのか!?　腹から声出してみせろ！」

　一瞬。何を言われたのか解らなかったに違いない。だが、その言葉の意味を理解した時、海軍の者達に紅蓮の怒りが点る。

「やればできるじゃねぇか！」
「いやいや。何で敵を鼓舞してんですか、兄貴」
「あぁん？　しょぼくれた敵を殺しても意味がないだろうが！」

　挑発により再び飛び交い始めた敵の怒号や命令に亮が嬉しそうに笑う。
　その嬉しそうな笑顔を見て呆れたように部下がぼやいた。

「おっと、随分派手なパフォーマンスをする面白そうな奴が出て来たな！　おい、お前、俺と踊ろうぜ！」
「あ、また飛び込んでいった」

　ふと亮が視線を他所に向けると、そこには仲間である海賊達を吹き飛ばす巨漢の男がいた。その男を強敵を見定め、亮は獲物を発見したとばかりに飛びかかっていく。
　それを見て部下の一人が呟いた言葉が別の海賊の耳へと届く。どうにもそれがペットが飛びかかった程度の発言に聞こえて仕方がないが、亮の様子を見ればそれはあながち間違いではないのかもしれない。

「おらおらおらぁ！」

　戦場に轟く亮の声は、海兵で動く者がいなくなるまで静かになる事はなかった。

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