キングオブキングス｜リアクション

キングオブキングス

■「豊かさとは選択肢のことさ。選択肢を増やすには？　そう、知るだけでいい」
　ツクヨミ共和国に旅鴉月詠国王が即位した。
　資本主義国家であるツクヨミ共和国はそのトップが選挙によって決まるが、実質的にはその資本によって決まるといってもいい。
　国民が何を求めどう行動しているかを国の上層機関は調査把握し、それにマッチした形で選挙というパフォーマンスを行なう。
　自主的に選んだことにさせる。その納得こそが、政治の第一階層だと考えていた。
　だが月詠が即位したその瞬間より、彼らは考えを改めることになる。

「国が富むには人が富まなければならぬ」
　ツクヨミ共和国は自国の資源に乏しい列島国だった。それゆえ貿易に頼らざるを得ず、他国に対して大きな優位性をもっていなかった。
　だからこそ裕福な国民は流通を牛耳る極々一部の富裕層のみ、彼らが国益を吸い上げ、多くの貧民を出していた。
「まずは個人の幸せを、余裕が出来たらその幸せを皆に与えなさい」
　ゆえにツクヨミのこの発現は多くの非難を浴びることになった。
　彼らは自分たちを貧国の住民だと思っていたからだ。
　だがツクヨミは国民の非難を簡単にかわし、まず国民の自由を大幅に認めた。
　正確に言うと基本的人権の及ぶ範囲をきわめて国家的な規模へと引き上げたのだ。
　こうなると国民は困った。突然自由を与えられ、今まで奴隷のごとき生き方で回していた生活を一変するチャンスが巡ってきたのだから。
　とはいえ、一変してなにになればよい。
　困惑する国民に月詠はこう訴えかけた。
「推奨されるのは――資材を集め、商品を売ること。一番簡単に儲けるなら？　毎日川で水をくんで売ればいい。魚を釣って売ればいい。草をとっても、羊を育ててもいい。今無限に存在する選択肢に迷っているけれど、それこそが豊かさなんだ」
　国民ははたと気づいた。自分たちは何をしてもいい。そして未来永劫豊かに暮らすために必要なのは、より多くの知識であると気づかされた。
　彼らは集まった。話し合った。意見や知識を交換をして、互いにとって都合の良い生活を見つけ合った。
　ある者は毎日船を作り、ある者は毎日漁に出て、ある者は毎日魚を捌いた。
　一次産業はともかく二次三次といくにつれ売れ残ることのないよう、国はそれをまとめて買い上げた。
　買い上げて何をするかといえば……。
「この頑丈な袋にさ、水入れてさ、寝たら気持ちよくない？」
　などとアイデアを飛ばしては新しい商品を開発し、経済の循環を活発化させていた。
　月詠は王である以前に商売人であり、それ以前にアイデアマンだったのだ。
　次々と生み出される商品に国民は沸き、黙々と働く彼らは徐々に技術を先鋭化させ、気づけば世界的経済循環の中心でシバ王国と争う立場へと変わっていた。
　貧しい国は、もはやない。
　その立役者である月詠は今日も時代の先を作っている。
「このワイヤーハンガーを曲げてさ、バナナ吊るしたらさ、黒いとこ出なくない？」