キングオブキングス｜リアクション

キングオブキングス

■「いい日っていうのはね、一日の終わりにお腹がすいてない日のことよ」
　第十七期ガルダ国王選挙。
　あまたの立候補者が権謀術数を交わす中、堂々とした選挙活動によって国王に選ばれた女がいた。
　名を伊藤美緒。
　決定直後に行なわれた宣言スピーチの中で、美緒はこう述べた。
「新国王美緒が目指すのは、『満腹な国家』よ。皆満腹でいられるなら、世界だって平和になるわ」
　世界平和と社会幸福を端的に言い表わしたそのスピーチは後の歴史にも深く刻まれ、『満腹な国家』はその時代を表わす語句とされた。
　そんな希代の女王伊藤美緒の政策と実績を、まずは振り返ってみたい。

　歴史研究家および政治記者が伊藤美緒を希代の女王と称する理由は三つあげられる。
　一つ目は、『満腹な国家』という誰にでも分かりやすい指標を立ち上げたこと。
　二つ目は、農林水産に多くの税金を集中させ衣食住における食の一次産業を『平らに』特化させたこと。
　三つ目は、それらの政策を通す度胸である。
　国もとい民というものは遠くのことを考えない。星の裏側で起きたことや水道の蛇口から数キロたどった先や、貨幣の循環先を考えない。
「それは愚かだから、浅慮だからじゃないわ。みんな今を、自分の両手が届く先で生きることに目一杯だからよ。沢山お金や時間があれば余力が生まれて社会奉仕や哲学について考えるけど、一日の殆どを田植えや営業やファミリーレストランでの接客にあててる人にそんな余力はないの。だから、誰にでも一瞬で分かる指針が必要になるの」
　伊藤美緒はそう言って、自らの腹に手を当てた。
「人は誰でも飢えたことがある。お腹いっぱいになったことがある。そしてその方法を本能的に知ってる。どうすればいいか、考えることができる」
　国家ガルダは神民主義政治といって民が国王を選び、それを任命する権限を全国民が等しく所有するというものがある。
　ゆえに不信任票を多く集めれば美緒を蹴落とすことも可能であり、農林水産に予算を割くことをよしとしない人間の反発も当然ながら起きたが……。
「お米を沢山育てるには？　水を引くわね。人を育てて学ばせて、道具を与えるわよね。土地を所有させて税を納めさせて、その土地を誰かに守らせ健康を維持させるわよね。皆がお腹いっぱいになるには……『満腹な国家』には、全部が必要なのよ」
　美緒はただ一つを求めるのではなく、その他全ての省庁を必要なものであるとし、『平たく』高めていった。
　これによりガルダ国は昨年までに抱えていた様々な問題を次々と解決し、国民から多くの支持を得続けた。
　それが後の国柄をも決めた『満腹な国家』の始まりであり、希代の女王美緒の歴史であった。

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