【夏至まつり】A Long Long Day｜リアクション

【夏至まつり】A Long Long Day

●花輪占い！

　木天蓼大学寝子島キャンパスの大学院生であるマリエッタ・ラシュリエは、所属する研究室で後輩の学部生の子から「今日って夏至まつりで浜辺で色々な催しが行われているんだって」と話を聞いた。
（へえ～ちょっと時間もあるし行ってみようかな）
　ぶらり立ち寄ってみると、浜辺はたしかに、禊だったりたき火だったりがあって盛り上がっている。
　するとその背中に、陽気な声が投げかけられた。
「お姉さん、花輪占いやっていかない？」
　聞けば、ヨーロッパの北の方では、夏至に女の子たちが花冠を編むそう。広場では、農作物の収穫と子孫繁栄の思いのこもった草花で飾った白樺のポールも建てられ、人々は集まってダンスを踊ったり、花輪をポールに向かって投げて、婚期を占ったりするのだとか。
　寝子島の夏至まつりではそれを真似て、小ぶりの花のポールが立てられ、女の子たちがきゃあきゃあ歓声を上げながら、用意された花輪を投げている。
「ポールに上手くはまれば、恋が実ると言われているよ！　もし外れてしまっても大丈夫。誰かが拾ってくれれば、その恋はすくわれるからね」と呼び声はいう。
（花輪がポールにうまくはまれば恋が成就する、か……）
　マリエッタは、白や紫の花と濃い緑の草で編まれた花輪を受け取った。
　実は今、まさに長距離恋愛中。アメリカに留学中の彼氏がいるのだ。マリエッタは建築学専攻、彼は人工知能の研究者なので理系カップルだったりする。
「うまくはまるかな……それっ！」
　神経を集中してひょいっと花輪を投げる。
　花輪はくるくる……と回転し、すぽっと綺麗にポールに嵌った。
「きゃあ！　やった！」
　思わず飛び跳ねると、周りからも盛大な拍手が起こる。
「おめでとう！　お姉さんの恋、きっと実るね！」
　たかが占い、論理的なことなんて何もないんだけど、やっぱり嬉しい。
　理系女子だって、占いの結果に一喜一憂しちゃうのだ。

◇

「羨ましいです……」
　順番待ちをしていた御巫時子は拍手をしながらほうっと息をついた。
　落ち着いた雰囲気の時子は、向日葵柄の浴衣に向日葵の髪飾りを付けて夏らしい装い。豊かな黒髪をゆるく三つ編みにし、左肩越しに前の方に垂らしている。
　夏の日差しを受ける白いレースの日傘を預け、かわりに花輪を受け取って、一度両手で抱きしめる。
　思い描くは、白衣姿の化学教師、五十嵐尚輝。
（尚輝先生……）
　どんな結果になっても好きだけれど、入ったらいいなとドキドキする。
（いつか恋が実りますように……）
　照れながら微笑み、投げる。
　花輪は時子の手を離れ、青空に高く回転した。
「あっ」
　ポールに僅かに弾かれる。ふたたび空に跳ね上がる花輪。
　時子の眉が悲しく下がったその刹那、花輪は近くにいた男性の鳥の巣頭の上に。
「おや？　空から花輪が降ってきました」
「尚輝先生！」
　ポールからは外れたけれど、あまりに見事に頭の上に載ったので、これはこれで拍手喝采！
　赤面し、両手で口元を押さえて驚く時子の表情を見て取った占いコーナーのお姉さん、
「外れたけれど、受け取った人がいたからきっと大丈夫。その花輪は差し上げます！」
　と粋な計らいをしてくれたのであった。

◇

　鴻上彰尋も、はじめての夏至まつりに心弾んでいた。
　弟と妹には早々においていかれたので、ひとり気楽なそぞろ歩きだ。
　すると、人だかりができて盛り上がっているコーナーがある。
「花輪占い？　花のポールに花輪をかけるのかな」
　立ち止まって見ていると、
「お兄さんもどう？」
　と陽気な声。
　好きな女の子のひとりやふたりいるでしょ、と言われれば、たしかにそうで、脳裏に浮かぶはツインテールの女の子。好きな気持ちを伝えた……つもりだけど返事は曖昧な状態で。断られもしていないからこのまま近くにいても良いのかな、とかそんな状況である。
　花輪を受け取り、ポールを正面に見る。
（……前だったら、自信がなくて挑戦しようとも思わなかったかもな）
　自分の変化に思い至って、たとえ結果がどうであっても、それだけで十分な気もしてくる。
　目を閉じ、深呼吸ひとつ。
　占いだから、と無心で宙に放り投げる。
　花輪はポールのてっぺん付近に引っかかって、くるくると何度も回転している。
「あ」
　こてんとポールが倒れた。花輪は車輪のように砂浜を滑って行く。
　拾ってくれたのは胡乱路秘子。
「……んふふ。はい、どうぞ。誰かが拾えば、その恋はすくわれる……でしたよね？」

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