【夏至まつり】A Long Long Day｜リアクション

【夏至まつり】A Long Long Day

●たき火～berry & cookie

　恋する少年卯木衛は、年上の彼女である壬生由貴奈の手を取ってたき火の近くへやってきた。
　せっかくのお祭り。
　楽しまなきゃ損だ。
　デートを何回重ねても、愛しい気持ちはちっとも変わらず、むしろ深まってゆくように思える。
「みてうーちゃん。出店がたくさん並んでるー。食べ物もいろいろ……みんな海外で夏至で食べるものだねぇ」
　のんびりした口調で、けれど弾むような色を交えながら、由貴奈はあちこち指をさす。
「すげー直火ホットドックとかありますよ！　ベリーとかも！」
「ニシンの酢漬けまであるーおいしそー」
　それぞれ気になったものを買うと、たき火の日を見ながらランチタイム。
「ニシンの酢漬けはサラダと和えると美味しいんだよねぇ……なんて、夕飯の献立考えてるみたい。うーちゃんのベリーもおいしそうだねぇ」
　由貴奈がちょっぴり主婦っぽいことを言うのにもときめいて、衛はベリーを口に放り込む。
「イチゴとブルーベリーとラズベリーの凍ったやつ盛り合わせ。いただきまーす」
　口の中に、冷たさと甘酸っぱい味が広がって、衛は思わず目を細める。
「すごくうまい！　……けど」
　と衛はうっとり目を閉じた。
「こういうの、由貴奈さんのクッキーと食べたらもっとうめえんだろうなぁ」
　すると由貴奈、「……ふっふっふ」と不敵に笑い、取り出したのは可愛いラッピングの袋。
「今日もクッキーを焼いてきてるよぉ、予想してたわけじゃないけど。はい、どーぞぉ」
「うおお、由貴奈さん最高！　でもって、ベリーとの相性も最高！」
　金に近い桃髪の彼は、こうやって嬉しい時すっごく正直に表現してくれるから、いっしょにいるこっちも嬉しくなる。
（こーいうの、ほんとに幸せいっぱいだよねぇ）
　美味しそうにクッキーとベリーを頬張る様子を見ていたら、衛はちらちらとロウソクの方を気にしだした。
（楽しく過ごしてっけど気になってちょくちょく横目で蝋燭を見ちゃうんだよなぁ。だって……なあ？）
　――『カップルが手を繋いで飛び越えると、その二人は結婚できる』なんて言われたら、どうしたって気になってしまう。
　たき火にあたる由貴奈さんを上目遣いで窺う。
「なぁに、うーちゃん？」
「ねえ由貴奈さん、」
　ごくり、つばを飲みこむ。
「俺はすぅっげえあの蝋燭を由貴奈さんと越えたいなって思うんですけど、由貴奈さんはどう思います……？」
「蝋燭……かぁ」
　さっきから衛がチラチラ見ているのに気づいていた由貴奈は、わざとに言った。
「あーど忘れしちゃった、蝋燭をカップルで飛び越えるとどうなるんだっけかー？　んふふー思い出せなーい。うーちゃん知ってるのー？　教えてほしいなぁ、うーちゃんの言葉で」
「え、その……け、」
「け？」
「結婚できる、らしいです……手をつないで飛び越えると」
　真っ赤になって俯いて。
　そんな衛の耳に届いたのは「……ふふー、いいよぉ」という声で。
「本当ですか！」
「本当だよぉ。いつになるか分からないけど、出来ればいいねぇ、結婚」
　――今ならろっこんなしでも５ｍくらい跳べそうだ！

　離れないようにしっかり手を握って、蝋燭の前に立つ。
「はい、絶対に離しちゃだめだよぉ？」
「は、はいっ！」
　声が裏返った、気がする。いつも以上に騒ぐ心臓。胸に手を当て無理くり抑えつける。
「せーのっ」
　由貴奈の掛け声で、二人は蝋燭を飛び越えた。
「着地！」
　衛は彼女の顔を見上げると、由貴奈も衛の顔を見て。
　互いに自然と笑顔になって、なんだかもっとうれしくなった。