実験農場：田植えのはずが泥試合｜リアクション

実験農場：田植えのはずが泥試合

転：決戦、三夜湖

　――三夜湖。

「これぐらいでいいかしら？」
　と、何やらがさがさいう袋を手に神野美野梨が戻ってくると……尾鎌蛇那伊が５、６本の苗を抱えて田植えをしていた。これだけみれば普通の光景だが、よく見ていただきたい。彼が持つ苗は動いているのだ！！
「あら、早かったのね。こっちは順調よ？」
　蛇那伊は額に飛んだ水をぬぐい、たおやかにほほ笑んだ。雰囲気も笑顔もこのように優しい蛇那伊だが、引き締まった筋肉の持ち主である。だが瞬発力があり、とても頼もしい。
「こっちも作戦を決行するだけです。ここからどんどん捕まえに行きますよ」
　美野梨も眼鏡を正し、自信ありげな表情を浮かべる。と、「おりゃあっ！」という勢いのある声が聞こえた。御剣刀である。
「何が不満なのかわからんが、田んぼを壊すな！」
　脳裏で撃鉄を落とし、ろっこん『加速』を発動させて次々に苗をとっつかまえていく刀。彼は捉えた苗を田んぼに素早く丁寧に植えた。
「これはおとなしくなったら回収すればいいのか？」
「あー、霧乃さんからの伝言や。ここいらの苗はここいらの田んぼにそのまま植えてＯＫなんやて」
　そう言ったのは様子を見に来た牛瀬巧。彼は水源方面の様子を見た後、そのままこっちへと伝言をしに来てくれたそうだ。
「それじゃあ、この子たちはこのままでＯＫね？　うふふ、どんどんやるわよ！」
　蛇那伊はにっこりと笑い、そのまま逃げていく苗を追っていった。刀も負けれられない、とばかりに苗を捕まえに行く。
「私もがんばりましょう」
　美野梨は袋でがさがさ言っている何かに笑いかけ、苗を探しに行く。その袋の中身がなにかわかった巧は「さすがやね」とつぶやいた。
「ようおったなぁ、それ。たしかに、この苗たちには敵やな」
「はいっ！　先生も一緒に来ますか？」
　美野梨が袋を見せて問いかければ、巧は頷く。こうして、２人で苗を探しに行くのだった。

　一方、恵御納夏朝はというと、畝に攻撃する苗と対峙していた。
「こらーっ！　畝に穴をあけちゃダメ―！！」
　そういって手早くねこさんシールを張り、ろっこん『重く軽く』で苗を重くする。そして、進化能力で離れた場所の苗にシールを飛ばそうとした。だが、苗数本が集まり、夏朝へと爆破する粉をかけてきた！
「うわっ！？」
　どうにか避けたものの、粉の爆破と共に逃げていく苗。夏朝はとりあえず重くした苗だけでもシールをはがし、田んぼへと植える。
「問題は、あの爆破する粉だね」
　そういいながら折り畳み傘（三夜湖付近のお土産屋さんで購入。税込600円）の手元を握り、速やかに伸ばした。とびかかってくる苗に対し一撃見舞い、地面におちてぴくぴくしているそれを拾い上げた。
（爆発する粉をまくのだったら、これのなかで自滅してもらおう）
　夏朝はお土産屋さんでもらったビニール袋の枚数を確認しながら、真顔で頷くのだった。
　一方、水上桜はその頃……ひたすら田植えをしていた。
「次！」
　とびかかってくる苗をキャッチし、次々に植えていく。そして夏朝が投げ渡した苗も植えていた。
「水上さん、そっちいったよ！」
「はいっ！」
　夏朝が捕まえ損ねた苗を、すかさず捉える桜。青い空に、跳ねる泥、きらめく水……案外ニャンスタ映えするかも？　と桜は考えるものの、苗を植えることは忘れない。
「あとどれぐらいいるんでしょうか？」
「全くわからないけれど、やるだけだよ」
　桜が額の汗をぬぐいながらつぶやき、夏朝はため息交じりに身構える。２人は向かってくる苗たちを迎え撃った。