実験農場：田植えのはずが泥試合｜リアクション

実験農場：田植えのはずが泥試合

結：苗と彼らの結末は

　正午を過ぎたころから曇りだし、ぽつぽつと雨が降り出した。
「大丈夫か？」
　佐藤英二が水源から三夜湖の方へと手伝いにやってきた。拠点と登山道はあらかた終わったため、こっちへと来たのである。そこを担当していた八神修と羽生碧南は拠点周辺の田んぼへと苗を植えている。
　御剣刀が英二に気づき、顔を上げる。彼は顔についた泥をぬぐいながら英二の元に向かった。
「あぁ、どうにかな。だいぶ植えられたんじゃないか？　ただ……」
「ただ？」
　ふいに影が下りる刀の顔。不思議に思った英二が首をかしげるものの、その頬を緑色の何かがかすめた。よく見れば、先ほどよりも元気に動く苗の姿だった！
「くっ、もうすぐ終わるってのに！！」
「僕がうけとめる！」
　恵御納夏朝が伸ばした折り畳み傘で打とうとするが、それを鮮やかにかわす苗。
「早いっ！」
「逃がさないわよ」
　それをカバーしたのは尾鎌蛇那伊。彼はそつなくすばやくそれをキャッチすると、田んぼに植えた。
「これは傘を開いたほうがいいのかな？」
「それじゃあ、俺はプラカード盾で援護しようかな」
　夏朝と英二はそれぞれの獲物を構え、刀と蛇那伊は頷きあう。４人は次々にとびかかる苗の衝撃を殺ぎ、彼らよりも早く捉えて田んぼに植えるのだった。

「雨が降ってきたみたいやけど、そっちはどうや？」
　牛瀬巧の問いかけに、人魚のように滑らかな動きで顔を上げたのは水上桜だった。
「泳いでいる苗は、あらかた確保しました！」
　実に生き生きとしている桜の様子に、巧と神野美野梨はほのぼのとなる。だが、美野梨は眼鏡をかけなおし雨に濡れた髪を払った。
「雨が降り出してから、動きが滑らかになりましたね。網では捕まえられなくて……」
「こいつらをおとなしくさせるのも、一苦労や」
　巧が持っている苗たち入りのビニールも、かなりもごもご動いている。桜はそうしている間にも網を避けて湖へと潜った苗を見逃さなかった。
（任せて！）
　桜は魚のように泳ぐ苗へと静かに速やかに近づき、すれ違いざまに捕まえる。彼女は水が冷えてきたことに危機感を覚えながらも、「ぷはっ！」と息を吐きだしながら顔を上げた。誇らしげに握られた苗が、降参、というように揺れている。
「でかした！」
「お見事！」
　巧と美野梨に褒められ、桜はうれしさを押し込めながら岸を目指した。

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