実験農場：田植えのはずが泥試合｜リアクション

実験農場：田植えのはずが泥試合

　一方、拠点。
　研究員たちの宿泊所も兼ねているそこは、日本家屋だった。霧乃曰く地下にも研究施設があるらしい。
「私はほかのところの様子も見てきます。何かあったら連絡ください」
　と志村霧乃に言われ、専用の携帯を渡された羽生碧南が、自慢の運動神経で奮闘していた。
「次！」
　しゅばっ！　と大胆な手さばきで苗を捕まえる碧南。普段は乙女ゲームが大好きで、妄想しちゃうと夢中になってしまうお嬢さんだがこれでもバスケット部のレギュラーで将来有望な選手である。その身体能力で次々に苗は捉えられている。
「この近くには田んぼがないのかしら？」
　と、拠点の裏手に回ると、小さな田んぼがあった。ここならいいだろう、とこれまた素早く植えていく。ある程度捉えたら植える、を繰り返していくうちに拠点で遊んでいた苗は少しずつ数を減らしていた。
　その中でも、一番厄介だろうとにらんだのは研究員の者と思われるバイクやら農具が置かれている場所で遊ぶ苗たちだ。
「後回しにしたら面倒なことになりそうねぇ」
　ため息交じりにそう言い、そろそろ近づいて隙を伺う。だが、彼女はその時嫌な予感がした。バイクには、鍵が刺さったままだったのだ。
「アレ、ちょっとマズいんじゃ……」
　そういった時だった。苗がバイクのキーを回したのは。かかるエンジン、弾む苗たち。バイクは無人のまま苗たちに押され碧南に襲い掛かる！
（油断した！　これって、絶体絶命じゃない？！）
　碧南は思わず身を竦めてしまったが……、同時に派手な音を立ててバイクは倒れた。しかし、痛みも感触もない。気が付くと、自分の周りに何かがあるような気がした。しいて言うならば、バリアのような何かが自分を包んでいるような感じがする。
　バイクは倒れ、苗たちがそれにびっくりして粉を爆発させる。だが、碧南を何も傷つけることはない。
「……もしかして、これ、ろっこん？」
　碧南は立ち上がり、首をかしげる。絶体絶命の危機を覚えた瞬間、自分を不可視のバリアが包み込んだ。それの消失を感じつつも、彼女は息をのんだ。

　――私、もしかして『もれいび』だったの？

　しばし苗を確保して田んぼに突っ込みつつも、その事実に驚愕してしまうのだった

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