【星幽塔】第四階層　湖中の戦い｜リアクション

【星幽塔】第四階層　湖中の戦い

○作戦準備

「俺は蟹を獲りにきたんだけなんだがまぁいい。協力してやろうじゃないか」
　14歳前後に見える美少年ミハイル・ドラグノフは言った。
　ミハイルは第一階層の森を住処に各階層で狩りをしている猟師だ。
　耳のあるべき場所に生えている羽が目を引く。
「協力したらシドニウムの作戦が上手くいくの？　どんな作戦？」
　水色のロングの髪のアリス・ミーティアは、かに座のアステリズム、シドニウム・カトルの表情を伺った。
　シドニウムは戸棚からラベルのついた薬瓶を取り出す。
「ここに水中で息ができる薬がある。効果は１時間程度だ。これで湖に潜ってグリムとブラム……あの二匹の喧嘩を鎮めて、魚を獲れるようにしてほしい」
　そう言いながら小さな薬瓶に薬を流しいれ、一人ずつに渡す。
「グリムさんとブラムさんというんですね。緑の方がグリ……黒の方がブラ……？」
　そう確認するペルラ・サナーレもミハイルと同じく羽耳を持っていた。
　お人好しで困ってる人を放っておけない性格がにじみ出ているペルラの言葉に、シドニウムが頷いて言う。
「そうだ。昔は仲がよかったんだが……人魚が絡んでいるという噂もある」
　八神修は身を乗り出し、薬の瓶を手にして眺めた。薄い青色をした液体だ。
「シドニウムの頼みだから力を貸すよ」
（水中呼吸薬は商品として仕入れたいな）
　笑顔を見せながら、友人たちと営業している店のことも考えている。
「うん……まずはどうして喧嘩になってるのかいろんな人に聞いてみるのがいいかなぁ」
　遠野まほろが眠そうな目で言った。
　ポニーテールの椿美咲紀が瞳を輝かせる。
「魚人さん達の争いを止めなきゃ湖が荒れるです。グリムとブラム……仲が良かったんですね？　人魚を巡って三角関係とか？」
「喧嘩の原因は、魚人の方に聞いてみます」
　ペルラが言う。
　旅鴉月詠は、巨大鍵や金属板に油性ペンで絵を描きながら言う。
「喧嘩で済んでいるという事が大事だ。勿論喧嘩する理由がある。他の魚人や人魚に話を聞けば解るはず」
「お土産とか持っていければいいんだけど……蟹で……いいかな？　他にも持っていけそうなものありますか」　
　まほろの言葉に、修も言う。
「外来人がいきなり聞いても込み入った事情は教えないだろう。なので証になる身分証や物品が欲しいな」　　
　シドニウムは眠そうな目で少し考える。
「身分証というようなものはないが、そう言うなら長老に一筆書こう」
　シドニウムは、プラスティックのように見えるカードを取り出し、何か書いて修に渡した。
　残念なことに修には読めなかったが。
「何て書いてあるんだ？　必要なら皆の分も頼みたいが」
「軽い挨拶だ。最近の魚人たちはほしびとに対して抵抗がないから、特に必要はないだろう。それと、これが湖底の地図だ」
　渡された簡単な地図には、魚人の村と人魚の村の場所が書かれていた。
　
（喧嘩の仲裁は苦手なんだよな。どうやら人は足りているようだし）
　人見知りで愛想のない新田亮は考えていた。
「町民に代わって魚やカニを捕らえようか」
（カニ……水中へ行くなら、水着に着替えておこう）
　そんなことを考えている水上桜は、実はあまりカニ料理は好きじゃなかったりする。
（指先が痛くなるし、身を解すのが苦手だし、しかも苦労して身を解した割には……。最初から身をほぐしたカニ以外は食べたくないな）
　などと思考が脱線している。
　皆の後ろでティオレ・ユリウェイスは、耳のピアスをいじりながら興味なさそうな顔をしていた。
「魚人同士でケンカしているみたいだけど、したいならしたいでさせておけば？　それよりも湖の中にあるっていうお宝を探しに行きたい」
　自分がケンカを止めに入らなくてもどうせ他の人が止めに入るだろうし、それなら役割分担ということで自分はお宝探しの方が性に合っている、と思うのだ。

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