【星幽塔】第四階層　湖中の戦い｜リアクション

【星幽塔】第四階層　湖中の戦い

○リラの気持ち

　人魚の集落は、女性が好みそうな綺麗な石で飾られ、可愛らしくおしゃれだった。
「こんにちは。リラって人はどこにいますか？」
　見かけた年配の人魚に、さっそくアリスが声をかける。
　星の力を使って魅了すると、人魚はいろいろ話してくれた。
「あの子なら、今頃丘で歌ってるわよ」
「歌が好きなんだね？　魚人がリラさんをめぐって争ってるんだってね。リラさんって、そんなに魅力的な人なの？」
「確かに綺麗だね。でもちょっとね……人魚は人魚らしくしていたほうがいいと思うけどね……」
「えっ、それって……」
「あの、リラさんはどんな殿方が好みなのでしょ？」
　美咲紀が身を乗り出す。
（というか既にリラに彼氏が居たら、グリムとブラム、とんだお邪魔虫だし争うのは湖の迷惑でしか無いし）
　そう思いながらの質問に、おばさん人魚は言った。
「あの子はイケメン好きよ。王子様なんてそのへんにいやしないのにねえ」
　その答えにアリスや美咲紀が顔を見合わせる中、まほろが尋ねた。
「……その丘の場所を教えてください」　

　美しい歌声が流れてきた。
　そちらへ近づくと、輝く金髪の美しい人魚が歌っていた。
「ん、リラさんだよね」
　歌い終えた彼女に、まほろが声をかけた。
「ええ。あなた方は？」
　きょとんとした様子のリラは鈴のような声で聞き返してきた。
「あ、これお土産のカニです……それとシドニウムから肌が綺麗になる薬をもらってきました」
「まあ、ありがとう」
　笑顔を見せるリラは花がほころんだような美しさだった。
「噂に聞いた通りとっても綺麗な人魚さんだ。魚人さんが惚れちゃうのは分かるな」
　まほろはリラに見惚れてしまった。
「私たち、グリムとブラムの喧嘩のことで来たの。リラは誰が好きなの？」　
　負けじと星の魅了の力を使い、アリスが単刀直入に尋ねる。
　笑顔を曇らせるリラに、まほろも言葉を添えた。
「うん……リラさんはどっちの魚人さんが好きなんだろう？　どっちかが好きだったりどっちも好きじゃないのならはっきり言っちゃうのも手かなぁ……。後は……かぐや姫的なお題出しちゃう……とか？」
「私はリラさんの気持ちを大事にしたいので！　思われるのは嬉しい事ですが、リラさんの好みに合わなくちゃお話にならないでしょ。彼氏じゃなくて彼女が居るかもだし!　男女間にしか恋愛は成り立たないという固定観念は捨てなきゃ。人魚は人魚が一番好き、かもなのです」
　美咲紀が考えを述べる。
「君の気持ちを先に聞いておきたいし我々はそれを尊重しよう」
　月詠が言った。
「そうでしたか……」
　リラは目を伏せた。
「私たちは幼馴染で、昔は仲良しだったけど……いつの間にか二人が私をめぐって争うようになってたんです。私は……そんなつもりはなくて」
　うんうん、と美咲紀が頷き尋ねる。
「リラさんはどんな人が好きですか？　お付き合いしてる人って、居るです？」
　少しためらった後、リラは思いつめたように口を開いた。
「お付き合いしている人はいないけど……私人間になりたいんです！」
「そう来たか」
　月詠がつぶやく。
「えーと、お付き合いはしてなくても好きな人がいる？」
　アリスの問いに、リラは恥ずかしそうに答えた。
「この湖から出たことがないので、あまり人には会ってないけど……シドニウム先生は素敵だと思います」
　皆が息を飲む。
「なかなか隅に置けないな。盗人を捕らえてみれば依頼人、と言うやつか……」
「恋盗人ってことです？　これは患者がお医者さまに恋するパターンですよね」
　月詠のつぶやきに美咲紀が答える。
「シドニウム先生独身だし、いいんじゃない？」
　アリスは新たな展開に目を輝かせている。
　戸惑いながら、まほろは言った。
「……三角関係とか難しいと思うけど大好きな人に止めてほしいって言われたら一時的にでも喧嘩は収まるかなって。根本の解決にはならないんだけど……お願いできるかな？」
　しばらく黙っていたリラは言った。
「私のせいですよね……話してみます」
「そうだ！　魚人のみんなと人魚集落のみんなを呼んでカニパーティーってどうかな？」
　アリスが声を上げた。
「交流しながら気持ちもほぐれると思うの。美味しいもの食べると幸せな気持ちになるでしょ。二匹がケンカ腰で話を聞いてくれない時はリラに頼んで話してもらいたいな」
「そうだな。力が余っているようなら、蟹を獲ってきてもらおう」
　月詠も言った。

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