ＳＴＯＰ、銀行強盗！｜リアクション

ＳＴＯＰ、銀行強盗！

「これが最後だ。覚悟してもらおう」

　静かにそう告げた旅鴉は、ろっこん『絵空事』の進化能力を発動させ、床に落ちている『絵』を引力で動かす。
　『絵』がゴアラ男に近づいたタイミングを見計らい、八神はろっこんを使って『絵』を分解した。

　破損した『絵』は、封印していた黄金の柱を次々と解放する。
　下から突き上げる、不意打ちの攻撃。

「そのぐらい読めないと思ったか！」

　すでに床の『絵』を警戒していたゴアラ男は、現れる柱にまどうことなく、旅鴉に狙いを定めた。
　しかし、旅鴉は恐れることなく静かに返す。

「いや、読んでいると予測していた。だからこそ」

　だからこそ、罠にかかりやすい。

　ゴアラ男は何が起こったのか分からなかったに違いない。

　なにしろ、その頭上からコピー複合機が落ちてきたのだから。
　しかも『重く軽く』によって重量が増えた状態で。

　いかに屈強を誇る男であっても、数十キロを超える機械が死角である頭の上から落ちてくれば耐えきれるわけもない。
　まして床の『絵』に注意を払っていたせいで、逃げる間もなかった。

　それでも直撃を避けて倒れ伏さなかったのは驚くべきことで、十分賞賛に値するだろう。
　全身に受けた打撃は深刻で、たたら踏んでいたけれど。

　そんな悪党の大きな隙を、逃すヒーローはいない。

　数多の傷を意に介さず立ち上がったザ・ストレイトは、進化能力である身体強化を発動させる。
　その場の全ての人間の認識力を置き去りにする猛烈なダッシュとともに、全身のパワーを右の拳に集めて振りかぶる。

　これが俺が借り受けたろっこんの力。
　皆を守るための力！
　その身にしっかりくらいやがれ！

「悪即成敗！　エビルブレイク・スマッシャァァァ！」

　必殺の右ストレートはゴアラ男の鳩尾を打ち抜き、その巨体を吹き飛ばす。
　黄金の柱を倒壊させ、金塊の山に埋もれた男はわずかに痙攣していたが、もはや動けるはずもなかった。

　ここで、大金庫前の戦いは幕を閉じたのだ。　

「……うまくいったね」
「ああ。なんとかな」

　恵御納と旅鴉は、倒れた男を警戒しつつも小さく息をはいた。

　本当の罠は、ねこシール。
　事務所でラベルシールに猫を描いたのは旅鴉だったのだ。

　これで、ねこシールは旅鴉の作品となり、ろっこん『絵空事』の対象となる。
　『重く軽く』で重くした事務所の備品を旅鴉デザインのねこシールに封じ込め、ゴアラ男を狙うと見せかけて、金の柱に貼り付けた。
　あとは男がその下に来たときに、八神が『分解』でシールを破損させれば、落石の罠の完成だ。

　ザ・ストレイトとの肉弾戦。
　旅鴉、恵御納、八神との銃撃戦。
　さらに床にまかれた『絵』によるろっこんの攻撃。

　立て続けの戦いに注意を奪われていたゴアラ男が、旅鴉が発案し八神が演出した落石の罠を見破れるわけがない。

　八神は男を見下ろしてつぶやく。

「結局、用意していた奥の手まで使うことになるとは。強敵だったな」
「確かに強敵だった。だが、これで寝子島の平和な未来に近づいた」
「そうだな。それより風……ザ・ストレイト、怪我は大丈夫か？」
「ああ、大丈夫だ。この程度の怪我など怪我のうちに入らない」

　ザ・ストレイトもとい風雲児の怪我を心配しつつ、八神はまだ解かれることのない銀行のバトルフィールドを感じて一人考えに沈む。

　……まだ強盗はいたはず。他の人は大丈夫だろうか。