ＳＴＯＰ、銀行強盗！｜リアクション

ＳＴＯＰ、銀行強盗！

【第3戦：金庫室内　ネコキュア面の男】

　その中は、強烈な風が吹き荒れていた。
　さらに大量のお札が舞い飛び、視界を塞いでいる。

　それだけでも異常な状況だったが、さらに見る者を困惑させる存在が居た。
　『サンマキャッチ☆ネコキュア』のお面をかぶった、まるまると太った男が腕組みして立っていたのだ。

　その体重は、ゆうに100キロを超えているのではないだろうか。
　小山のように太った体で、ネコキュアのお面をかぶった姿は、滑稽を通りすぎ不気味にすら感じられる。

　だから、いきなり金庫室内に転移した上下左右と尾鎌蛇那伊は、流石に言葉を失い眼前の巨魁を凝視した。

「えっと。そのう……あのお方を倒せばいいんですのよね？」
「ええ。ミラの言葉を信じるならね」

　かろうじて意識を引き戻し、確認し合う二人。
　その会話に引き寄せられたように、ネコキュア男は渋い声を上げた。

「我らの邪魔をするもれいびはお前たちか。いいだろう、全力を持ってお前たちを倒す！」
「セリフだけ聞いたら正義の味方のようですわねぇ」

　上下は、顔に張り付くお札を手で払いながらぼやいた。

　さて、どうしましょう。
　戦うにしても、この部屋には大した『物体』がございませんものね。

　体育は苦手だし、もちろん武術の心得はない。
　ろっこん『Close to you』は、物体同士の距離を空けたり詰めたりできる能力。うまく使えば戦闘に応用できないこともないが、どちらかといえば補助に向いた力だ。
　第一、『Close to you』で攻撃に利用できそうな重い物体が金庫室内には見当たらない。

　困りましたわ。と小首をかしげて考えていると、尾鎌が一歩踏み出した。

「ねぇ、この戦いあたしに任せてくれる？　見たところ君は戦う術は持ってなさそうだし」
「確かに直接戦う方法は持ち合わせていませんわ。申し訳ございませんがお願いしてもよろしくて？」
「任せて。これでもあたし武人なのよ」

　尾鎌はニコリと笑みを浮かべて、歩を進めながら戦闘準備を始めた。
　呼吸を整え、丹田に意識を集中し、気を練り上げて全身を巡らせる。
　「八方目」で視界に入る全体を見渡し、全てのものを認識する。
　五感を研ぎ澄ませフルに活用し、視覚に頼らずに周囲を把握する。
　「聴勁」を用い、肌感覚で相手の出方を伺う。

　ネコキュア男も尾鎌の姿を見て感じるものがあったようだ。
　お札が飛び交う中、体を揺らしゆっくりと近寄ってくる。

「お主、なにか武術を学んでいるだろう。その構えは中国拳法か」
「あら、それが分かる武人とは嬉しいわ。そういう君は……空手かしら？」
「我流ではあるが、忍術をいささか」
「では骨法かしら。血がたぎるわね」
「お相手つかまつる」

　まるで競技試合であるかのように互いの拳を軽く合わせると、二人は静かに構えた。